我々は最近、プラズモン共鳴により光を吸収する貴金属ナノ粒子(NPs)を酸化チタンなどのn型半導体と組み合わせた系において、光誘起電荷分離が可能であることを見出した。この系は、NPの吸収断面積が大きく、またNPのモルフォロジーによって光学特性を制御できる、といった特徴がある。本研究では、この電荷分離の機構を解明し、光電変換、光触媒、多色フォトクロミズム、光電気化学アクチュエータなどへの応用を試みることを目的とした。 銀ナノロッドの近赤外域における挙動に関する検討では、酸化チタン単結晶上に二軸配向した銀ナノロッドに可視~近赤外偏光を照射すると、ナノロッドの長軸モードを励起したときには両端付近に、短軸モードを励起したときには側面付近で再析出ナノ粒子が高い頻度で観察され、プラズモン誘起電荷分離が起こりやすいことが確認された。このことから、局在電場が電荷分離を誘起または促進している可能性が高いことがわかり、プラズモン誘起電荷分離の機構を解明する上で重要な、また電荷分離効率を向上させるための指針となる知見が得られた。 銀ナノプレートの近赤外域における挙動に関する検討では、酸化チタン上に直立配向した銀ナノプレート一粒子の光学特性を暗視野顕微鏡を備えた原子間力顕微鏡により検討することに成功した。さらにそれを、可視偏光または近赤外偏光を用いることにより、配向選択的に転倒させることができた。転倒による光学特性の変化は離散化双極子法によるスペクトル計算による検討と合致した。偏光選択的に応答する光学素子・光電気化学素子などに応用できる可能性がある。
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