金属ナノ構造は局在表面プラズモン共鳴(LSPR)と呼ばれる光共鳴現象を示し、その近傍に光増強電場が誘起される。この局在増強電場を利用した分子の光吸収や誘導放出遷移過程の制御および光反応の高効率化を目的に、本研究では、金属ナノ粒子表面に色素や光異性化分子の薄膜を被覆した金属-分子複合ナノ構造の作製と、その吸収・発光スペクトルや光反応の顕微分光計測を進めている。本年度の主たる成果として、光反応におけるLSPR光電場増強効果をフォトクロミック反応に対して実証することに成功した。具体的には、ガラス基板上に固定化した金ナノ粒子(直径100、40nm)にジアリールエテンポリマーの薄膜(膜厚20nm)を被覆した金ナノ粒子/ジアリールエテン複合膜を作製し、フォトクロミック反応の励起波長依存性を詳細に検討した。その結果、金ナノ粒子LSPR増強電場の影響によりナノ粒子近傍(10nmオーダー)のジアリールエテンの可視光照射による消色反応の効率が5から8倍増大されることが分かった。励起波長依存性や粒子サイズ依存性の実験と解析から、反応効率の増大の主たる機構がLSPR増強電場による分子の光吸収確率の増大であることが示唆された。金属ナノ構造近傍でおきる光反応に対する光電場増強効果を定量的に評価できることを明らかにすることができた。また、金属ナノ粒子表面での光反応解析を目的とした顕微分光システムの開発も行った。フェムト秒レーザーの基本波および高調波を励起光源に、フェムト秒白色光をプローブ光とした、共焦点光散乱顕微分光装置の構築を構築した。高分子フィルム中の単一金ナノ粒子のLSPRバンドが、レーザー照射により変化する様子をリアルタイムで測定することに成功し、励起光強度や励起波長依存から、そのスペクトル変化が光加熱による温度上昇では単純には説明できないことを示した。
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