本研究の目的は、これまで築いてきたユビキタス元素であるBとAlの正20面体クラスター固体の統一的描像をさらに進めつつ物質探索を行うことであった。さらに、正20面体以外の多面体を持つクラスター固体にまで探索範囲を広げた。その結果、平成23年度を含めこの5年間で下記の成果が得られた。 1)α菱面体晶ボロンへのLiドープに成功し、最高で7Kの転移温度を示す新超伝導体を創製した。 2)β菱面体晶ボロンへのLiまたはMgドープでは、侵入型ボロン原子が抜けたり、原子空孔が発生したりして、ドープされた電子を自己補償することを発見した。これは単体結晶では唯一の現象である。 3)六方晶窒化ホウ素へのLiドープにも初めて成功した。 4)BTiRu系において、液体急冷することにより、正10角形準結晶を発見した。これは強い共有結合を作るボロンの組成が40%程度であるため、まだ半導体ではないが、半導体準結晶へ1歩近づく成果である。 5)アルミ系正20面体準結晶の熱電性能向上設計指針として、「重く強固なクラスターが弱く結合した固体」を提案し、元素置換によりその有効性を確かめた。これはアルミ系準結晶の擬ギャップを真のギャップにして半導体化する方向でもある。無次元性能指数ZTは、最大で0.26(500K)まで向上した。 6)アルミ系準結晶の関連物質であるGa_2Ruにおいて、組成の最適化により、無次元性能指数ZTを、p型で最大で0.5(800K)まで向上させることに成功した。一方、RuのRh置換により、n型で最大で0.2(500K)を得た。 7)四重極イオントラップを用いて、ボロン数が40個までの水素化ボロンクラスターの創製に成功した。12原子からなるクラスターは、水素が4個以上で正20面体構造を、2個以下で三角格子の準平面構造になることが分かった。希ガスのバッファガスを導入して水素数の制御に成功した。
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