研究概要 |
原子スケールの制限空間内に閉じ込められた物質系では,バルク領域から単純に推測した場合とは異なる興味深い性質が現れる。すなわち,バルク領域から原子スケール領域への"クロスオーバー"が生じる。本研究はこのような現象を,配列ナノ空間物質系を用いて系統的に研究することが目的のひとつである。本年度は,カーボンナノチューブの空洞内部に1次元的に配列されたフラーレンC60分子の動的性質を核磁気共鳴(NMR)法により研究して興味深い結果を得ることに成功した。平均直径13.5Åのカーボンナノチューブ内のC60の1次元結晶について13C-NMRスペクトルとスピン格子緩和時間を300Kから4.2Kの温度領域において測定した。C60分子への選択的13Cエンリッチ法によりC60分子のNMRを選択的に観察し,カーボンナノチューブ内部の"C60結晶"は,バルク結晶のような分子配向に関する相転移を示さないこと,C60分子は30K程度の低温まで異常な高速回転運動をしていることが明らかになった。このような振る舞いは,1次元的分子配列を反映しているものと考えられる。 また,東工大グループにより発見された新規超伝導体,C12A7のNMR実験を開始した。C12A7はありふれたセメント材料物質であるが,脱酸素処理により金属化して超伝導を示す。その電子状態は,アルミ,カリシウム,酸素のネットワークが作る空洞ケージ内に高い振幅を有する電子がバンドを形成して金属化するものと考えられており,超伝導機構等極めて興味深い。本年度は,アルミのNMRの観察に成功し,脱酸素処理による金属化の様子が明らかになった。
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