研究領域 | フラストレーションが創る新しい物性 |
研究課題/領域番号 |
19052004
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
陰山 洋 京都大学, 工学研究科, 教授 (40302640)
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研究分担者 |
上田 寛 東京大学, 物性研究所, 教授 (20127054)
益田 隆嗣 東京大学, 物性研究所, 教授 (90313014)
加倉井 和久 日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 教授 (00204339)
川島 直輝 東京大学, 物性研究所, 准教授 (30242093)
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キーワード | フラストレーション / 量子スピン / 低次元 / 新物質 / 量子相転移 |
研究概要 |
平成23年度も1、2、3次元の量子スピンフラストレート系の物質開拓とそのフラストレート物性の総合的な理解を目指した研究を行った。成果を大別すると以下の5つになる。(1)陰山は、初の4層物質(CuCl)Ca2NaNb4013の合成と、スピン一重項物質(CuCl)Ca2Nb3010の単結晶育成に成功した。また、1/3プラトーを示す(CuBr)Sr2Nb3010の中性子回折より、ゼロ磁場では(0、3/8、1/2)、1/3プラトー相を含む磁場中では(0、1/3、0.446)へと伝播ベクトルが変化することを明らかにし、これらはJ1-J2-J3モデルで説明可能であることを示した。(2)上田が中心となって、クロムホランダイトK2Cr8016における強磁性金属-強磁性絶縁体転移がパイエルス機構で起こることを構造解析と電子構造計算により明らかにした。また、絶縁体になっても何故強磁性が維持されるかについても明らかにした。他に、3次元フラストレート系物質Cd2M2F6Sについて磁性とフラストレート効果を明らかにした。(3)益田は、昨年度に発見した強磁性反強磁性一次元フラストレート鎖LiCuvo4の新奇相の静的性質を定量的に明らかにすることに成功した。ただ、予定していた中性子散乱実験は震災の影響でできなかったため、新奇相の動的性質については解明に至らなかった。(4)加倉井も、震災の影響により、Cu(Cl,Br)La(Nb,Ta)207系の実験はアマテラス(J-Parc)でわずかに行なえただけにとどまったが、海外との共同研究実験をすすめることによって、これらの系に統一的な解釈を与えることに成功した。(5)川島は、面間の相互作用がランダムな磁性体に関して、モンテカルロシミュレーションを行い、実験的に発見されていた2種類の波数で秩序がみられる混合相が存在することを確認し、その様相を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災は、特に中性子を専門とする益田と加倉井にとって大きな痛手であった。しかし、懸命なる復旧作業に追われながらも、これまで得られた中性子データの解析とモデル計算、他の実験手段によるデータ補完、さらには海外からの中性子ビームタイムの援助などを利用した結果、アクティビティとしてはこれまでと遜色のないものになった。上田、益田、陰山は担当する各次元において、「強磁性相互作用と反強磁性相互作用の競奏効果」による新しい量子現象を発見した。これは、従来型の反強磁性相互作用にのみ頼っていたフラメトレート系物性に新たな軸を与えるものであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
特定領域研究は終了したが、今後も量子フラストレート班は、共同研究を続けていく予定である。平成23年度に加倉井や益田が予定していた非弾性申性子散乱実験は、震災の影響で実験に支障がでた。しかし、J-ParcやJRR-3では復1日が進み、平成24年度以降は、LiCuVO4の(CuCl)LaNb207などの実験を行なう予定である。
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