研究概要 |
(1)高エネルギー電子ビームと材料の相互作用によって,試料の物性に関するほぼすべての情報が何らかの量子(光子,電子,X線)を通じて発信される.通常の分析STEMでは捨て去られてきた,または別々の専用機によって測定されてきたこれらの量子が運ぶ情報を,一台の装置でできうる限り同時に取得する「複合電子分光」(電子エネルギー損失分光,軟X線発光分光,カソードルミネッセンス)をほぼ確立させた.これは従来「総合機」におけるそれぞれの測定系性能は,個別の「専用機」のそれに劣るという常識を覆す意義を持つ.このシステムを用いて,高エネルギー電子を目標の格子特異点に絞り,その場所の電子状態を定量的に計測・評価そして可視化する「物性画像診断」という新規材料創出にとって不可欠な基盤技術を確立した.(2)所謂「実材料」への適用において,しばしば高輝度の電子ビームを原子サイズの場所に集中することによる試料変悸が深刻な問題となっている.世界的トレンドである実空間の一点に電子プローブを集中すること無く,特定の原子面,界面などにプローブ電子を局在(電子チャネリング)させる位置選択的な電子状態測定法を開発した.さらにこれを固体構造の対称性の破れから逆空間の特定の位置に散らばった情報を収集・統計処理することによって情報抽出する局所電子状態測定へ拡張し,実際の化学反応場でその場測定法を開発した.(3)以上をさらに特に金属微粒子触媒-担持基板の各面反応,機能元素のナノレベル可視化,遷移金属の電子状態規則配列の直接測定などへ応用した.具体的にはリチウムイオン二次電池正極の劣化解析,硬磁性材料の微量機能元素の占有サイト解析,ユビキタス元素を用いた白色発光ナノ構造体の状態マッピング,可視光応答光触媒の活性サイト分析,赤色蛍光セラミックス中の賦活元素占有率と占有サイト分析などに成果を挙げた.
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