研究概要 |
カーボンナノチューブは,通常の量子細線とはトポロジカルに異なっており,さらにグラフェン上で電子が自由電子とは異なった運動をするために,興味深い性質を示す.この特徴は,グラフェンを連続体とみなし,有効質量近似で扱うことにより,はっきりする.すなわち,ナノチューブ上の電子の運動はニュートリノに対する2行2列のWeylの方程式で記述される.ただし,円筒を一周したときに波動関数に余分の位相がつく.この位相はナノチューブの螺旋構造により決まり,ナノチューブが金属になるか半導体になるのかが決まる.この研究では,カーボンナノチューブや新しいナノチューブ物質の興味深い特異な伝導現象と光応答を理論的に解明し予言することを目的とする. 本研究で理論的に明らかにしたい問題は,(1)金属的なナノチューブに存在する完全透過チャネルの及ぼす効果,(2)多層ナノチューブの層間相互作用の効果,(3)ナノチューブ先端の電子状態特にトポロジカル欠陥に伴う局在状態,(4)バンド構造に対する多体効果と光スペクトルに対する励起子効果,である.本年度はこれらの問題の中で,特に(1)と(4)について,以下のような成果を得た.(1)電気伝導現象に関して,有限長ナノチューブに励起されるプラズモンと電磁波との結合による吸収の厳密な計算を行い,単に1個のプラズモンが励起されると仮定した簡単な単一モードの近似が驚くほど良く成り立つことを示した.かれは,金属ナノチューブで外場の遮蔽効果が非常に大きいためである.(4)半導体ナノチューブの励起子吸収効果に対するファミリー効果を有効質量近似からの補正の最低次で考察し,第一ギャップについてはほとんど完全に再現できること,第二ギャップについてはある程度不十分さが残ることを示した.また,ナノチューブのまわりの誘電物質による遮蔽効果である環境効果の計算を行い,とりまく媒質とナノチューブの距離によりそれが大きく影響されることを示した.なお,実験結果はグラファイトの層間距離程度の間隔を仮定すると理解できる.
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