研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)電子源の高性能化と電子線機器への応用に関して,以下の成果を得た。 1. CNT表面へのチタンコーティングによる電子放出特性の改善 多層CNTエミッタへのチタン蒸着を電界放出顕微鏡内で行い,Ti蒸着量による電流-電圧特性の変化を系統的に測定した。その結果,蒸着無し(清浄表面)からTi平均膜厚0.9nmまでは放出電流が増加するが、平均膜厚が0.9nmを超えると放出電流が減少することが分かった。また,Fowler-Nordheim理論に基づく解析から,膜厚が0.9nmまでの放出電流の増加は、主に電子放出面積の増大により、膜厚が0.9nmから7.2nmまでの放出電流の減少は、電界増強因子の減少による事を示した。 2. 金をコーティングした単一CNTからの電界放出の透過電子顕微鏡その場観察 タングステン針の先端に固定した一本の多層CNTに金を蒸着した後,このCNTを陰極として透過電子顕微鏡内で電界放出の動的観察を行った。放出電流が40μA(電流密度で1.7×10^7A/cm^2)に達するとCNT先端付近の金粒子の直径が減少し、金粒子は消失した。この金粒子の消失はジュール加熱による温度上昇に起因すると推察され,金原子の蒸発する速度からCNT表面の温度を見積もると、1900K程度であった。なお、CNT先端付近の金粒子の消失により放出電流は増加した。 3. CNTポイントエミッタの電子源基礎特性の解明と走査電子顕微鏡実機への搭載 電子線誘起堆積法により一本の多層CNTをタングステン針先端に固定する時に,電子ビームの照射時のみW(CO)_6を導入することで,CNT先端部分への余分の堆積層の形成を抑制した。このエミッタを超高真空電界放出型走査電子顕微鏡に装着し,放出電流の時間変動の測定と二次電子像の観察を行った。放出電流の変動率については、85分間で3%以下、2分間で2%以下であり、現在実用化されているW単結晶エミッタの安定性と同程度であった。二次電子像にいては,ノイズの少ない像を得ることができたが,対物絞り位置調整機構の故障により,残念ながら分解能の評価はできなかった。
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