研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)電子エミッタの高性能化と電子線機器への応用を目指し,以下の成果を得た。 1.CNT表面への金属蒸着が電子放出特性に及ぼす効果 CNTとの界面にオーミック接合が期待されるパラジウム(Pd)を平均膜厚で0.3nmから3.0nmの範囲でCNTに被覆し,電界放出顕微鏡(FEM)法により電流-電圧特性とFEM像を測定した。その結果,電子放出の閾値電圧が膜厚とともに単調に上昇する場合と,ある蒸着量(平均膜厚が約1.5nm)で低下する場合が観察された。前者は,CNTより仕事関数の高いPdがCNTの電子放出部分を一様に覆うように付着したためと考えられる。後者では,PdがCNTの五員環の曲率半径よりも小さい粒子として付着し、そこからの電子放出が加わったためと推測される。 2.CNTと金属電極とのコンタクトの構造と電気抵抗 閉管CNTの先端を金(Au)電極表面に接触させ,電流を流すことによる接触部の構造と抵抗変化を透過電子顕微鏡その場観察法により測定した。電流密度で2.6×10^8A/cm^2の電流を流すと,Au表面が隆起し,CNT先端がAu内部に数nm挿入され,接触抵抗が89kΩから45kΩに減少した。この抵抗の減少はCNTとAuの接触面積の増加に起因する。 3.面状CNTエミッタの作製と電子放出特性 鉄触媒をシリコン基板上に正方格子にパターン形成し,アセチレン熱分解法によりCNTのピラーアレイを作製した。ピッチ63μmから80μm,ピラー高さ22μmから80μmの範囲で電流-電圧特性を測定したが,電子放出特性に大きな変化はなかった。電子放出サイトの面内分布についても,ピラーアレイ寸法に対する依存性は小さく,いずれも不均一な分布であった。これらの結果は,CNTピラーアレイのサイズ制御による電界遮蔽の軽減効果は小さく,電界放出特性の改善のためには個々のピラー単位でCNTの形態制御が必要であることを示している。
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