研究概要 |
単層カーボンナノチューブ(SWNT)の特異な光学特性をデバイスに応用するために、その発光や非線形光学応答、磁気光学効果を解析し、デバイス応用への基本指針を得ることを目的として研究を進めた。 SWNTの発光に対する環境効果に関しては、酸化により先端を開いたSWNTを用い、水分子やエタノール分子の吸着に伴うSWNTの光学遷移エネルギーの変化が、チューブの外だけでなくチューブの内側への吸着においても現れることを明らかにした。吸着位置がチューブの内か外かに依存して光学遷移エネルギーのシフト量が異なることから、吸着位置の同定及び分子内包状態の制御が可能になった。(本間、千足) 非線形光学応答に関しては、SWNTがバンドル状になっている薄膜試料や、孤立しているミセル化試料について、3次の光学非線形感受率x<^(3)>の測定を行い、孤立化している試料では、バンドル試料に比べて性能指数Imx^<(3)>/αが一桁以上大きいことを明らかにした。また、性能指数にはチューブ直径依存性があり、直径の大きなチューブほど大きな値を示すことを明らかにした。さらに、SWNTの位相緩和時間(T_2)の測定を行い、T_2には、試料依存性、温度依存性、励起光強度依存性があることを明らかにした。また、非線形性能指数の増大に位相緩和時間も関わっていることがわかった。(市田) SWNTの光応答に対する磁場・電場変調効果の研究では、磁場変調分光用の交流電磁石(20Hz, 片側振幅最大値1.5T, 磁極間距離5mm)を作製し、これによる弱磁場極限でのCNTのAB効果による励起子吸収の分裂の観測や、三重項励起子に関する精密吸収分光を計画している。(徳永) 以上のように、分子吸着を利用した特性制御の可能性を見出すとともに、光学応答に対するバンドル効果や直径依存性及びその起源に関する解析を進め、SWNTの光学応答の理解と応用に有用な成果を得た。
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