本年度は質量選別クラスター分光装置の開発を進め、新規の赤外光源の導入を含めて実験装置の完成度を高めた。これにより、アミノ酸水和クラスターを考える上で比較の基準となる大サイズプロトン付加水クラスターH^+(H_2O)_nの赤外スペクトル観測をほぼ完了させることが出来た。プロトン付加水クラスターの観測においては、サイズ領域を大幅に拡大し、n=200にいたる大サイズの観測に成功した。また従来の光源では問題が生じていた3500cm^<-1>付近のスペクトルギャプを消滅させた。これにより、全OH伸縮振動領域(2200-3800cm^<-1>)の観測を行うことが出来た。自由OH伸縮振動バンドと水素結合OH伸縮バンドの強度比のサイズ依存性から、大サイズクラスターにおいてクラスター「内部」が生成していることを明確に確認した。自由OH伸縮振動数に対する余剰プロトンの影響はn~100でほぼ消滅して振動数は一定となるが、その振動数と氷表面のそれとの比較から、クラスター表面はアモルファス状であることが示唆された。また、サイズ増大に従い、水素結合OH伸縮振動バンドが緩やかな低波数シフトを示した。バンド位置はn=100で液体の水のバンドに相当する振動数に、ついでn=200では過冷却水のバンドに良く一致した。これはサイズの増大と共に、クラスター内部の水素結合の構造化が進むことを示していると解釈された。n=200-300で水クラスター内部に氷状の六員環構造が形成されるという分子動力学計算による予測があり、これを定性的に支持する結果となった。
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