研究概要 |
プロトン移動反応素過程の研究は、協同的に進行する溶液や生体内の複雑な反応機構について解明するために重要である。本研究では、分子間相互作用、励起状態ポテンシャルについて詳細に調査しながら、分子の協同的な運動のしくみについて解明することを目的とする。平成21年度は、以下の3つの課題において成果が得られた。(1) 気相における7-アザインドール・t-buthylalcohol[7AI(t-buthyl-OH)_n(n=1-3)]の励起状態プロトン/水素移動について調査した。7-アザインドール・methanol/water1:2クラスターと同様に、振動状態選択的な励起状態3重プロトン・水素移動(ESTPT/HT)が生じることが分かった。ESTPTとESTHTのどちらが起こっているかについて7AI(CH_3OH)_2のS_1状態について高精度量子化学計算(CASSCF/CASPT2/aug-cc-pVDZ)を行った。その結果、段階的機構によるESTHT反応の二つの中間状態のエネルギーは、協奏的機構によるESTPTの遷移状態のエネルギーよりも0.7eV高いことが分かった。段階的機構によるEHPTの遷移エネルギーは更に高いはずである。この結果は、7AI(CH_3OH)_2においては、ESTPTが優勢であることが示唆している。(2) V^+(H_2O)_n、 Ni^+(NH_3)_nおよびCo^+(NH_3)_nについて、赤外光解離スペクトルの測定および量子化学計算を行った。V^+(H_2O)_nとNi^+(NH_3)_nが平面4配位構造をとるのに対して、Co^+(NH_3)_nは正4面体型構造をとることがわかった。前者は金属-溶媒間の反発を最小にする構造であるのに対して、後者は溶媒分子間の反発を最小にする構造である。これらの相互作用の微妙なバランスにより配位構造が決定されることが明らかとなった。(3) 多自由度系を扱う場合、系のポテンシャルエネルギー超曲面の決定がなければ、その系において量子動力学を実施することは明らかに困難である。つまり,幾つかの例外はあるが,古典論と量子論の間を橋渡しする,既存の方法を超えた新しい方法が不可欠である。そこで我々は,半古典論に基づく波束伝播法の独自開発を行い、その評価を実施した。
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