研究領域 | 分子高次系機能解明のための分子科学―先端計測法の開拓による素過程的理解 |
研究課題/領域番号 |
19056005
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
関谷 博 九州大学, 大学院・理学研究院, 教授 (90154658)
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研究分担者 |
大橋 和彦 九州大学, 大学院・理学研究院, 准教授 (80213825)
迫田 憲治 九州大学, 大学院・理学研究院, 助教 (80346767)
南部 伸孝 上智大学, 理工学部, 教授 (00249955)
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キーワード | プロトン移動 / 水素結合 / 赤外分光 / ゆらぎ / 金属・溶媒和 / 配位構造 / 非断熱遷移 / 波束発展法 |
研究概要 |
平成23年度は、以下の3つの課題について新規な成果が得られた。 (1)2-phenylethanol(2PE)と水の1:1クラスターには2PEのOH基がプロトン供与するDonor構造とAcceptor構造の異性体が存在する。これらの二つの異性体のS_1状態を経由した2波長イオン化を行い、生成物のIRスペクトルを観測し、2PEと水の分子間水素結合がDonor構造とFree構造の二つの構造間を揺らいでいることが示された。孤立気相クラスターイオンにおける水素結合の揺らぎを直接的に観測した報告例は無く、凝縮相の揺らぎと関係づけるための重要な結果が得られた。(2)Co+(H_2O)_nおよびV+(NH_3)_nについて、赤外光解離スペクトルの測定および量子化学計算を行った。T字型3配位構造のCo^+(H_2O)_3では、Co^+に水分子が直接配位する余地が残っている。しかし、4番め以降の水分子は第2水和圏を占め、Co^+(H_2O)_<4-6>におけるCo^+は配位不飽和のままであることが分かった。一方、V^+(NH_3)_nにおけるV^+は平面型4配位を好み、d(x^2-y^2)軌道を空にしたV^+の電子配置から予想される配位構造を示すことが分かり、金属イオンの電子配置と配位構造について洞察を与える結果が得られた。(3)単一ポテンシャルエネルギー曲面を断熱伝播させる半古典凍結ガウス伝播法と非断熱遷移を考慮するために使われる散乱理論を用い、電子状態間の非断熱化学動力学を記述するための波束発展法を用い、1次元Tullyモデル、2次元水分子モデル、より現実的な3原子分子や24次元系であるピラジンモデルへ応用し、量子計算結果および実験結果が一致した。 上記の成果は、平成22年度までに得られたプロトン移動が起こる水素結合系の励起状態ダイナミクスや揺らぎの解明の手掛かりとなる重要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
7-アザインドール・水1:3クラスターの励起状態3重プロトン移動速度を決定し、反応の振動状態選択性について明らかにした。1:3クラスターにおいて、水素結合ネットワーク構造の異性化を初めて観測した。気相における水素結合の揺らぎの観測は本研究の主要な目的の一つであった。水分子が結合したクラスターを光イオン化して、内部エネルギーを与え、水分子のマイグレーションや水素結合ネットワークの再配列、水素結合の揺らぎを観測する方法を確立した。単一ポテンシャルエネルギー曲面を断熱伝播させる半古典凍結ガウス伝播法と非断熱遷移を考慮するために使われる散乱理論を用い,電子状態間の非断熱化学動力学を記述するための波束発展法を開発した。このように、本研究から多くの成果が得られ、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、多重プロトン移動の研究、水素結合ネットワークの再配列、水分子のマイグレーションの研究から水ネットワークの構造とダイナミクスに関する研究分野を確立した。このような研究はタンパク質表面の水和水など、生体分子系の水ネットワークのダイナミクスと水素結合の揺らぎの研究に発展することが可能である。そのために、生体分子イオンの生成を行うためのエレクトロスプレー装置の作成およびクラスター温度制御装置の製作を行っている。孤立系の水素結合の揺らぎについての理論的研究は極めて不十分であり、理論化学研究者との共同研究が重要となっている。実験と理論とのインタープレーによって更に研究を推進したい。
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