研究概要 |
試料の分子構造を壊さず,「一分子一ピーク」という分子量での分析を可能とする非解離(ソフト)イオン化法と飛行時間型の質量分析装置を組み合わせた手法は,夾雑物や多数の物質を同時に含む生体試料の分析に重要である。本研究では非解離イオン化法であるマトリックス(及び表面)支援レーザー脱離イオン化法(MALDI,SALDI法)のメカニズム解明を目指すともに,新規なソフトイオン化の手法を模索する。MALDI機構においてマトリックスは,発光の量子収率が低く吸収した励起エネルギーの大部分を無輻射過程により緩和するものが有効とされている。本実験では,マトリックス結晶中での励起エネルギー散逸過程を観測した。典型的なマトリックス分子を取り上げ,この結晶の時間分解蛍光を測定したところ,すべての結晶が二成分による蛍光の減衰を示した。それぞれの緩和成分は自由励起子と自己束縛励起子による緩和を表していると考えられ,自由励起子は結晶分子の二量化に伴い格子振動を誘起し自己束縛を起こすことから,自由励起子の緩和速度は格子振動の誘起割合を反映していると考えられる。また各種のマトリックス分子を用いてモデルペプチド分子(サプスタンスP)のMALDI-TOF-MS測定を行い,分子関連イオン及びマトリックスイオン強度を比較した。その結果,自由励起子の緩和速度とマススペクトル強度との相関が得られたことから,マトリックス結晶の振動の誘起割合が脱離、イオン化機構の初期課程において重要な要因になっている事が示唆された。
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