研究概要 |
試料の分子構造を壊さず、分子量での分析を可能とする非解離(ソフト)イオン化法と飛行時間型の質量分析装置を組み合わせた手法は、夾雑物や多数の物質を同時に含む生体試料の分析に重要である。本研究では非解離イオン化法であるマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)のメカニズム解明を目指すともに、新規なソフトイオン化の手法を模索する。(1)分子内に細孔を持つアルミノ珪酸塩であるゼオライトにMALDI法で用いられる有機マトリクス分子を吸着させ、これをあらたなマトリクスとしてペプチドの質量分析を行った。ゼオライト細孔空間での運動抑制によりマトリクス分子の解裂が抑制され、低分子量領域のスペクトルが単純化された。またゼオライトの超強酸の性質により、マトリクス分子へのプロトン移動が促進され、ペプチドの分子関連イオンピーク強度が最大で20倍増大させることに成功した。(2)MALDI法はマトリクス関連イオンの存在により低分子量領域の観測が難しいとされている。我々は有機マトリクス分子をα, β, γシクロデキストリンに包接させ、これを新たなマトリクスとしてペプチドの質量分析を行った。NMRの結果により、シクロデキストリンと有機マトリクスが深い包接を示す組み合わせほどマトリクス関連イオンピークを減少させる効果があることを見出した。特に完全に包接する組み合わせではマトリクスのピークを完全に消すことに成功した。シクロデキストリンの存在によりマトリクスと試料の混合が容易になり基盤上に均一な混合結晶が成長することを電子顕微鏡により観察した。このためMALDI法特有の欠点である試料の場所依存性を解消することができ、試料位置に依存しないマススペクトルを観測することに成功した。
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