マトリクス支援レーザー脱離イオン化法においてこれまで不明だった脱離のメカニズムを解明する目的でフェムト秒時間分解質量分析法を開発した。MALDIのモデル系であるテトラセン分子を微量含むアントラセン結晶からの脱離過程を時分割観測した。これにより試料分子の脱離にはマトリクス分子の電子緩和に伴う格子振動励起が重要であることが示された(投稿中)。 さらに分子振動とプロトン付加の関係を探るため、水酸基の存在位置が異なるマトリクスを使って質量分析を行い、水酸基が分子内で水素結合を形成するマトリクス分子が試料のプロトン付加には適していることが分かった。このため該当する水酸基の振動を励起する意味で近赤外光を照射し質量分析を行ったところ、通常法では得られない感度で試料のプロトン付加ピークが増強することが分かった。また振動励起のための近赤外照射とイオン化のための紫外照射の時間を変化させた時分割測定を行ったところ、本実験の条件下で試料へのプロトン付加には約2ナノ秒のスケールで起きていることが理解された(投稿準備中)。 また開発したカチオン置換ゼオライトマトリクスを用いて、従来MALDI法では測定できなかった試料(アスピリン等)の測定に成功した。現在赤外分光法や量子化学計算によりメカニズム解明に努めている。
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