研究概要 |
1.トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)の場合、分子内水素結合を形成する水酸基(σ-OH)のプロトンが、マトリクスの光励起に伴いカルボキシル基へと移動する。その後マトリクスの光励起の際に生成したσ-Oへ水和水又は残存溶媒からのプロトンが付着し、[THAP+H]^+が形成されることが理解された。 2.マトリクスイオン(主に[m+H]^+)の生成が最初に必要であり、その後試料分子へプロトンやカチオンが移動し試料がイオン化される。このダイナミクスを追うために、試料として指示薬のパラニトロフェノール(pNP)を利用し時間分解過渡吸収を測定した。その結果、溶液中でTHAPを励起後、約3psの時定数によりpNPのプロトン付加が観測された。現在、質量分析用の試料固体での測定を目指している。 3.脱離のダイナミクスのみを観測する目的で、テトラセン混合アントラセン(TDA)結晶を利用し、テトラセンイオン[M]^+の脱離過程を、開発した時間分解質量分析法により測定した。マトリクスとして利用したアントラセンの電子緩和に伴う分子間への振動冷却過程が脱離に重要であることが理解され、その時定数は約100psであった。2の結果と統合すると、通常のMALDI測定と同様に低いレーザーパワーを用いて質量分析を行う場合、イオン化は脱離の前に起き、MALDIはMALIDと表記すべきと示唆された。 4.水酸基のプロトンをLi^+,Na^+.K^+.Rb^+,Cs^+に置換したゼオライトとマトリクスの複合体を作成し、これまでイオン化されなかった数多くの分子(バルビタール、アスピリン、テトロドキシン等)のイオン化に成功している。
|