研究領域 | 分子高次系機能解明のための分子科学―先端計測法の開拓による素過程的理解 |
研究課題/領域番号 |
19056009
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田原 太平 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 主任研究員 (60217164)
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研究分担者 |
竹内 佐年 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (50280582)
山口 祥一 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (60250239)
石井 邦彦 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 研究員 (80391853)
細井 晴子 東邦大学, 理学部生物分子科学科, 講師 (00313396)
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キーワード | 凝縮相 / ダイナミクス / 超高速分光 / 非線形分光 / 時空間分光計測 / 単一分子計測 / 複雑分子系 / 生体関連分子 |
研究概要 |
多くの核がどのように連動して多原子分子の化学反応を実現しているかを理解することは、高次系分子科学研究における最も基本的な問題であるといえる。われわれは約1psの時定数で光異性化を起こすシス-スチルベンの構造変化を時間分解インパルシブラマン分光法用いて追跡した。この実験では、まず紫外パルス照射により異性化を開始する。次いで遅延時間AT後に11fsパルスを照射して反応性S_1状態分子のラマン活性振動をコヒーレントに励振し、その振動をもう一つの11fsパルスを用いて時間領域で直接観測した。測定の結果、S_1状態のν_<33>モードに帰属される約240cm^<-1>の振動数をもつ振動が大きい強度で観測された。興味深いことにこの振動の重心振動数は、0.3ps以降時間とともに24cm^<-1>も低波数シフトした。さらに、異性化が速く進行するメタノール中ではこの低波数シフトも加速した。この実験結果は、異性化に伴う構造変化とν_<33>モードとの非調和結合によりν_<33>モードの力の定数が時間と共に減少すると考えることで説明できる。観測された振動数シフトを分子の具体的な構造変化と結びつけるために、TDDFT法を用いてS_1状態の反応座標の計算とそれに沿う構造の各点での瞬時的な基準振動解析を行った。計算されたν_<33>振動数は反応座標に沿ってまず増加した後、減少に転じており、実験で観測された振動の特徴的な振動数の振舞いを再現した。このTDDFT計算は、シス-スチルベンの光異性化では、従来考えられていたようなフェニル基の大きな運動を含むC=C周りの回転ではなく、エチレン部位の2つの水素原子の面外変位により分子のねじれが引き起こされること示唆した。この他にもフェムト秒レーザー光を用いた超高速分光と非線形分光によっていくつかの分子高次系に対する新しい知見を得た。
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