生理条件下のタンパク質では、絶えずその三次元構造が変化している。我々は瞬間瞬間のタンパク質の構造を、低温の単一タンパク質分光で明らかにすることを目指している。本年度の主な成果は以下の二つである。 (1) 脂質二重膜中に再構成した最小単位の光合成ユニット(PSU)内で起こるエネルギー移動の観測.紅色光合成細菌における最小の光合成ユニット、すなわち光捕集色素・タンパク複合体LH2と反応中心(RC)を含むLH1-RC複合体との二量体を天然の環境である脂質二重膜中に催告精することに成功し、複合体間のエネルギー移動を調べた。二量体には、エネルギー移動がほぼ100%起こっているものと、数十%のものとが存在した。これは再構成の際に膜の表裏の区別ができていないため、表裏の揃った二量体と、逆になった二量体の違いによると考えられる。 (2) ミドリムシ由来の青色光感受性二次メッセンジャー生成酵素(PAC)の光受容機構の解明.ミドリムシが青色光を避ける際の光受容体としてPACが同定された。青色光は補因子であるFADが吸収するが、FAD自身には光吸収をON/OFFの二状態に変換できる構造上の自由度がない。これを解明すべく、単一の補因子結合部位を遺伝子組み換え株も用いながら単一FAD分子の蛍光スペクトルを測定した。その結果FADと水素結合しているグルタミン残基で構造スイッチングが起こっていることが分かった。 以上の結果から、単一タンパク質の分光が、これまでの集団の測定でははっきりしなかったタンパク質の性質を明らかにすることができる強力な手法であることを示せた。
|