1. 高感度時間分解可視・紫外共鳴ラマン分光システムの製作 高繰り返しパルスレーザーシステムを導入し、高感度の時間分解可視・紫外共鳴ラマン分光システムを構築した。これによって、現有のシステムと併せ、ピコ秒からミリ秒の幅広い時間領域にわたって、ヘム(〜400nmにて共鳴)、芳香族アミノ酸残基(〜230nmにて共鳴)、ペプチド骨格(〜200nmにて共鳴)など、タンパク質の多くの部位を特異的に観測することができるようになった。この分光システムを用いて、以下の研究を展開した。 2. ヘモグロビンのアロステリックダイナミクスに関する測定 これまでヘモグロビンの構造ダイナミクス研究では、生理的なリガンドである酸素の代わりに、一酸化炭素がリガンドとして主に用いられてきた。これは酸素を用いた時間分解測定が極めて困難であるためである。本研究では、上記の高感度の時間分解共鳴ラマン分光システムを用いることによって、酸素を用いた時間分解測定の困難を克服し、ヘモグロビンの生理的に重要な構造ダイナミクスをとらえることに成功した。 3. ヘム含有酸素センサータンパク質に関する研究 ガスセンサータンパク質では、センサードメインに含まれるヘムに、ガス分子(検知対象の分子)が結合することによって局所的な構造変化が誘起され、それが機能ドメインに伝達され、活性が制御されている。この機構を明らかにするために、酸素センサータンパク質のひとつであるHemATについて、リガンド脱離に伴う構造ダイナミクスを観測した。その結果、酸素リガンドに特異的なスペクトル変化を新たに見出した。 上記のタンパク質以外にも、光センサータンパク質(イエロープロテイン、センサリーロドプシン)、光駆動プロトンポンプ(バクテリオロドプシン)などの光受容タンパク質についてもアロステリック構造ダイナミクスの研究を行った。
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