ヒトデ未受精卵での細胞周期の停止、受精による細胞周期の開始、および受精しない場合の細胞死について解析した。 1.受精による細胞周期停止の解除:ヒトデ成熟未受精卵は、Mos-MAPK-Rsk経路依存性にG1期に停止して受精を待ち、受精するとMosがタンパク分解するとともにMAPK経路が不活性化してG1期停止を解除する。これまで、Mosのタンパク分解がMAPK経路の不活性化に必須と考えていたが、今回、そうではないと判明した。この新事実は、Mosのタンパク分解とは独立に、受精によってMAPK経路を不活性化する系が動き出すことを示している。今後は、その実体の解明の方にも研究を展開していきたい。 2.受精によるS期の開始:ヒトデ成熟未受精卵でS期が開始しないのは、RskがCdc45 (DNA polymerase αAの積載因子)の染色体への積載を抑制することによる。Cdc45の制御因子であるCut5とSld5/GINS、およびMcm4のリン酸化について解析を進めている。 3.受精によるM期の開始:ヒトデ成熟未受精卵では、MAPK(Rskではなく)がサイクリンAとBのタンパク合成をpoly(A)鎖の伸長に非依存的に抑制することにより、M期の開始が阻止されている。poly(A)鎖を介さない翻訳調節因子として、PumilioとeIF2αAを解析したところ、MAPK依存性のリン酸化が見られた。 4.未受精卵の細胞死:受精しない場合、ヒトデ卵は減数分裂を完了すると約8時間後に同調的なアポトーシスを起こす。今年度は、MAPK直下のRSKが、Na+/H+Exchanger (NHE)をリン酸化して活性化することで細胞内pHを上昇させ、アポトーシスを抑制することを明らかにした。アポトーシス直前にMAPK-RSK経路は不活性化し、pHが低下することで、アポトーシスが促進される。
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