ほ乳類の脳神経発生ではapico-basalの極性をもった神経上皮細胞が幹細胞としてはたらく。本年度は、神経幹細胞の分裂方向を発生脳中でランダム化することにより、apical processあるいはbasal processだけを受け継いだ娘細胞を作りだし、それらの構造と自己複製能との関係を、昨年度確立した神経幹細胞のbasal processの分配をモニターできるslice culture系を用いて解析した。その結果、分裂によって誕生した二つの娘細胞がそれぞれ、apicalおよびbasal processを受け継いだ場合、両細胞ともに増殖層を脱出すること、さらに、basal processを受け継いだ娘細胞だけが自己複製すると同時に神経細胞を生じる非対称分裂を行うことを発見した。またこのような非対称分裂を2回以上繰り返すものも一定の割合で生じた。これらの脳室帯外神経幹細胞は、正常な神経幹細胞と同様、自己複製能の維持にNotchシグナルの活性化を必要とすることを確かめた。興味深いことに、Notchの基質Deltaは脳室帯外にはほとんどないとされているが、このような脳室帯外幹細胞が生じる際は、同時に移動する自身の姉妹細胞から供給されることが判明した。さらに、正常なマウス胚の脳にも、このような脳室帯外で自己複製能を持つもの神経幹細胞が少数ながら存在し、発生が進むにつれて徐々に増加する傾向にあることを見いだした。霊長類などの脳回を有する哺乳類の発生中の脳では、脳室帯外神経幹細胞が主要な神経幹細胞として神経産生を担うことが知られており、分裂様式や形態的にも酷似していることが判明した。これらの知見は、霊長類等の脳室帯外神経幹細胞が分裂軸の揺らぎにより、apical processを失うことで生じる可能性を示唆している。
|