Chk1は、DNA複製/障害チェックポイントの際に活性化される蛋白質リン酸化酵素(キナーゼ)である。ATRによるChk1のセリン317およびセリン345のリン酸化反応がChk1の活性化に必要であることはよく知られているが、その他のリン酸化反応によるChk1の制御はほとんどわかっていないのが現状といえる。以前、我々は、分裂期において、サイクリン依存性キナーゼ(Cdk)1がChk1にセリン286およびセリン301をリン酸化することを報告してきた。今年度、分裂期においてChk1が分裂前期の進行とともに核から細胞質に移行することを見出した。また、分裂前期細胞において、外来性のChk1の野生型(WT)は細胞質および核に局在するにも関わらず、セリン286/301をアラニンに置換したChk1変異体(S286A/S301A)に局在はほとんど核内にしか認められなかった。さらに、細胞の分裂期への進行は、S286A/S301Aの誘導によって著しく遅延することが判明した。以上の結果は、1)Cdk1がChk1のセリン286およびセリン301をリン酸化することでChk1を核から細胞質に移行させていること、2)このChk1の核外排出により、細胞がより円滑に分裂期へ進行しやすくなっていることを示唆するものである。 また、今年度、1)このリン酸化反応が、分裂期だけでなく、紫外線照射におけるDNA障害時やヒドロキシウレアによるDNA複製障害時にも引き起こされること、2)このリン酸化反応がCdk2によって制御されていることを明らかにした。このことは、リン酸化反応によるChk1の機能制御は当初考えられていたものより複雑で、少なくとも活性化に必要なATRからのみならず、Cdkによっても制御されていることを意味している。
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