哺乳類の心筋細胞は胎児期は活発に増殖するが、生後に増殖停止してからその後、二度と増殖しない。その機構を探るため、胎児期から生後にかけて減少する細胞周期調節蛋白質、サイクリンD1を任意の時期に発現誘導できるマウスを用いて研究を進めてきた。本研究では、成体でサイクリンD1を発現誘導後、いったんは停止していた細胞周期が再進行するが、再び停止する機構を細胞周期調節蛋白質の発現と機能の観点で生化学的に解析した。その結果、細胞周期のG1期からS期の進行に重要なサイクリンEの発現およびその結合酵素CDK2の活性は胎生10日胚の60%と著しく上昇するもののS期の進行に重要なサイクリンAの発現はさほど上昇せず、さらに興味深いことにサイクリンAに結合するCDKの活性がほとんど上昇しないことが明らかとなった。この結果は、サイクリンD1発現誘導心筋細胞はS期の途中で細胞周期が停止しているというこれまでの結果に合致した。また、完全に増殖停止している心筋細胞でもサイクリンEの発現およびその結合酵素CDK2の活性が再び高いレベルまで上昇しうることを初めて示した。さらに、成体心筋細胞では何らかの機構でサイクリンAに結合するCDKの活性を阻害する機構が働くことを示唆するという重要な成果となった。現在、その機構の解明を目指している。
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