研究概要 |
シャペロニン(GroEL)の新しい作用機構については前年度に概略を発表したが、今年度はその作用機構に基づいて、過去の有力な論文の内容を再検討した(HartlらのCell論文(2006年、2010年))。彼らはDMMBPというタンパク質のフォールディングがGroEL-GroESによって数倍早くなる、という実験などから、GroEL-GroES空洞のフォールディングの促進を次のように説明する。(1)狭いところに閉じ込めた効果と、(2)空洞内表面のマイナス電荷と空洞の底の適当に疎水的な残基によって、速やかにフォールドする。しかし、調べてみると、彼らの実験条件では、DMMBPの実に80~95%が空洞の外に逃げ出している。彼らが空洞内フォールディングと思ってあれこれ解析していたものは、空洞外の溶液中の自発的フォールディングであり、ほとんどナンセンスであると言える。また、Hartlらは、マイナス荷電をプラスに変えたGroEL変異体(SRKKK2)は、あるタンパク質(Rubisco,ダイマー酵素)のフォールディングが全くできなくなる、という結果を根拠にGroELのマイナス荷電の重要性を主張している。Rubiscoのフォールディング測定には、SRKKK2からGroESを引き離す操作が必要である。空洞中のRubiscoモノマーのフォールディングが終わっていれば、モノマーは会合して活性のあるダイマーになる。その活性を測ってフォールディングとする。私たちが調べてみると、彼らのやりかたでは、フォールドしたモノマーは壊れてしまう。彼らは、それに気が付かずに、フォールディングできない、と結論した。私たちは、安全なGroESを離すやりかたを見つけ出して、調べてみた。すると、RubiscoはSRKKK2によって問題なくフォールドできることがわかった。
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