本研究は、大腸菌における膜タンパク質の生合成、機能維持と制御、分解等の諸過程をグローバルな「品質管理機構」としてとらえ、これに関わる因子の作用メカニズムと相互作用、並びに生理的役割の全体像を解明することを目的とする。本研究はこれまでの申請者らの研究を総合・発展させ、ネットワークとして膜タンパク質の品質管理をとらえて研究するものである。本年度は、高度好熱菌タンパク質透過チャネル(トランスロコン)と相互作用し、タンパク質膜透過の後期課程に働くと考えられている膜タンパク質SecD/SecF複合体の立体構造をX線結晶構造解析にまって.3.5Aの分解能で決定した。SecDFはpsudo-synmetoricalな膜領域と二つのペリプラズム側に大きく露出した二つの領域を持つこと、N末端側のペリプラズム領域のhead subdomainは、少なくとも2種類の構造を取り得ることを明らかにした。生化学実験、電子顕微鏡観察、コンピュータシミュレーション等の結果に基づき、このペリプラズムドメインが構造変化を起こしつつ基質と直接相互作用し、プロトン駆動力に依存して分泌タンパク質の膜透過を駆動するとのモデルを提唱した。一方、膜タンパク質の膜組み込みや構造形成、品質管理に関わる細胞因子を同定するために、secY351変異に対するマルチコピーサプレッサーの分離を試みた。secY351変異に起因する表層ストレス応答の抑制と、高温感受性生育の回復を指標として、大腸菌遺伝子ライブラリー(ASKA library)をスクリーニングして、その様な表現型を示す候補を得た。それのマルチコピーサプレッサーにより実際にsecY351変異株中での表層ストレス応答レポーターの発現が低下し、モデル膜タンパク質の幕見込みが回復していた。これらのマルチコピーサプレッサーの解析をさらに進める予定である。
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