本研究は、大腸菌における膜タンパク質の生合成、機能維持と制御、分解等の諸過程をグローバルな「品質管理機構」としてとらえ、これに関わる因子の作用メカニズムと相互作用、並びに生理的役割の全体像を解明することを目的とする。本研究はこれまでの申請者らの研究を総合・発展させ、ネットワークとして膜タンパク質の品質管理をとらえて研究するものである。我々は、東大理学研究科・塚崎智也博士、濡木理教授、京都産業大学総合生命科学部・伊藤維昭教授との共同研究として、高度好熱菌Thermus thermophilus HB8由来のSecD/Fの立体構造を3.3Å分解能で解明した。更に構造情報に基づいた生化学的解析を進め、種々の実験結果から、「SecDFは、細胞質膜を挟んで形成されるプロトン濃度勾配エネルギーを利用し、プロトンを細胞質に取り込む際に生じる膜貫通領域内の構造変化を引き金に、非細胞質ドメインP1領域の構造変化を誘起し基質タンパク質の膜透過を促進する、イオン駆動型の膜透過促進因子と考えられる。」との新たな作業仮説を提唱した。 また、σ^E経路の表層ストレス応答に重要な役割を果たす膜プロテアーゼRsePの機能解析を行った。これまでに、RsePがin vivoで様々な分泌タンパク質のシグナルペプチドを含むモデル基質を切断しうることを見出していた。本年度は、in vitroで膜透過に伴って生じるシグナルペプチドを検出する系を構築し、RsePが、真性のシグナルペプチドの分解を行いうることを示した。このことは、RsePが膜タンパク質品質管理に関わる新たな役割を持つことを強く示唆している。
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