研究領域 | タンパク質社会の研究の総合的推進 |
研究課題/領域番号 |
19058011
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤木 幸夫 九州大学, 大学院・理学研究院, 教授 (70261237)
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研究分担者 |
田村 茂彦 九州大学, 大学院・理学研究院, 准教授 (90236753)
奥本 寛治 九州大学, 大学院・理学研究院, 助教 (20363319)
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キーワード | ペルオキシソーム / CHO変異細胞 / ペルオキシソームの形成機構 / ペルオキシン / Pex5p エクスポート / ペルオキシソームの分裂と形態制御 / DHA / Tysnd1, PsLon |
研究概要 |
本年度は以下の研究項目に取り組み、いくつかの新たな重要な知見を得、一層の進展を図ることができた。 1)ペルオキシソームマトリックスタンパク質の輸送・局在化機構の解明 a)マトリックスタンパク質輸送に必要不可欠であるPex5pのサイトゾル-オルガネラ間のシャトリングにおいて、ペルオキシソーム膜上でPex5pのN末領域に存在する酵母からヒトまで完全に保存されたシステイン残基がDTT(dithiothreitol)感受性のモノユビキチン化を受けることをin vivoで証明し、この独特な修飾がPex5pのエクスポートに必須であることを明らかにした(Okumoto et al.Traffic 2011)。 b)さらに、Pex5Dのペルオキシソームからのエクスポートを促進する新規因子として、ユビキチン結合性タンパク質Awp1/ZFAND6(p40と略)をラット肝臓サイトゾルから生化学的に精製、同定した(Miyata et al.2012)。p40は正常なマトリックスタンパク質の輸送に必要であり、上記ペルオキシソーム膜上のCvs-ユビキチン化Pex5pとAAA-ATPaseファミリーPex6pの両方に相互作用することでPex5pのエクスポートを制御することを見出した。 2)ペルオキシソームの誘導制御系の解析 脂肪酸β-酸化系単独酵素欠損症患者由来線維芽細胞では、極長鎖脂肪酸の蓄積、DHA(docosahexaenoicacid,C22:6n-3)合成量の低下とともに、ペルオキシソーム数の減少、肥大化等の形態異常が認められる。培地中へのDHA添加によりペルオキシソームの数、形熊が回復すること、この過程はPex11pβとDLP1依存的であること、ペルオキシソームの分裂に先立って、あるいは分裂時にDHA含有リン脂質によるPex11pβのオリゴマー化が誘導されるなど、ペルオキシソーム分裂のメカニズムの解明に成功した(ltoyama et al.2012)。 3)ペルオキシソーム生理機能の制御メカニズムの解明 Pex5p結合タンパク質としてペルオキシソームマトリックスセリンプロテアーゼTvsnd1とPsLonを同定し、Tvsnd1が脂肪酸β酸化系酵素のプロセシング酵素であること、その過程が脂肪酸β酸化の活性維持に必要であること、Tvsnd1のプロテアーゼ活性が自己切断による不活性化とそれに続くPsLonによる分解により制御されていることを発見した(Okumoto et al.JBC 2011)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ペルオキシソームの形成に必須な数多くのペルオキシンの機能解明により、分子・遺伝子レベルでの多くの新しい知見が得られたことから、ペルオキシソームの生合成やその障害、機能発現制御解明へのさらなる飛躍的進歩につながる。また、DHA等の代謝産物によるペルオキシソーム分裂制御機構およびペルオキシソームの特異的分解機構が新たに明らかになりつつあり、一細胞当たりのペルオキシソーム数のコントロール、オルガネラ-ホメオスタシスの分子基盤の全貌解明が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ペルオキシソーム動態制御系の研究は、タンパク質の細胞内選別輸送、オルガネラ形成、生体膜形成など現代分子細胞生物学、生化学の命題解明のみならず、形態形成・脳障害のメカニズム解明につながり医学領域への貢献も大きい。また、高等動物ペルオキシソームの形成機構の研究は我々が世界に先駆けて開拓した領域であり、「プロテインキネシス」研究のモデル系の一つとしてもオリジナリティの一層高い成果が期待される。また、Zellweger症候群などペルオキシソーム欠損性先天性代謝異常症のモデル動物(PEX14欠失マウス、PEX2ノックインマウスなど)を活用することで、脳・神経形成や器官形成異常のメカニズムの解明、および病態発症過程とその原因の詳細な解析、さらには(遺伝子)治療法の確立への展開などが期待される。
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