本研究では、末梢における免疫寛容誘導に重要な役割を果たすと想定されるミエロイド系抑制性細胞の動態や、免疫担当細胞間相互作用の支持基盤であるリンパ節の構造変化に着目し、その免疫学的意義を明らかにするとともに、自己免疫応答に関わる細胞動態制御シグナルを解明することを目的とし、以下の成果を得た。1)担癌状態におけるミエロイド系細胞の生体内動態について、細胞追跡用蛍光タンパク質KikGRならびに細胞周期プローブFucciの遺伝子導入マウスを用いた解析を行い、担癌マウスで腫大する脾臓はミエロイド系細胞の短期プールとなっているが、脾臓における髄外造血は極めて少ないこと、また、腫瘍内でのミエロイド系細胞のターンオーバーは極めて早いことを明らかにし、その細胞動態の数理モデルを構築した。これらの成果はミエロイド系細胞による免疫抑制機序を理解する上で確固たる基盤を与えるものと期待される。2)B細胞によるリンパ節髄質領域の再構築誘導には、lymphotoxin-β受容体(LTβR)を介したシグナルが重要であることを見出した。さらに髄質領域の再構築が阻害された条件下では、所属リンパ節において抗原特異的B細胞数が維持されているにも関わらず抗体産生細胞の数が減少することが明らかとなった。以上より、リンパ節髄質領域の再構築は、抗体産生細胞のニッチを形成するプロセスであることが示唆された。3)DOCK2は、DHR-2ドメインを介してRacを活性化するが、細胞内で効率よくRacを活性化するにはELMO1が必要である。DOCK2のN末端とELMO1のC末端の複合体の構造決定に成功し、その情報を基に機能解析を行い、ELMO1の動作原理の一端を解明した。また、DOCK2のDHR-2ドメインに特異的且つ可逆的に結合し、そのRac活性化をブロックできる制御化合物を同定し、リンパ球の遊走・活性化を効果的に抑制できることを実証した。
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