研究概要 |
自然白血病発症マウスモデルを用いて、白血病発症に伴いPD-1陽性のCD4陽性T細胞の増加とこれに伴うCD4陽性T細胞の機能低下が認められた。細胞分画実験によりPD-1+CD4+T細胞は免疫不応答性(アナジー)細胞であることが判明し、白血病化にともなう免疫抑制はアナジー化CD4+T細胞の増加に起因することが示された(Leukemia-associated anergic T cells, LA-T)。興味深いことに、PD-1+CD4+T細胞は正常個体でもその加齢に伴って漸増し、これらはやはりアナジー化T細胞であることが判明した(Senescence-associated T cells, SA-T)。これらのT細胞はいずれも、T細胞抗原受容体を介する増殖応答や各種サイトカインの産生応答を全く示さなかった。正常CD4+T細胞とLA-TおよびSA-T細胞とのDNA microarray解析により、後者のT細胞においては多くの遺伝子発現プロファイルの変化が認められ、かつLA-TとSA-T細胞のプロファイルは極めて相同であることから、これらは同等の機序によって発生するものと考えられた。とくに元来T細胞にほとんど発現されない転写調節因子の著明な発現亢進(C/EBPa,VDRなど)と、元来高発現される因子の著明な発現低下(SatB1,KLF2など)が確認された。この結果はこれらのアナジー化T細胞は遺伝子プログラミングの大きな変化によって誘導されたものであることを示唆するとともに、自己由来変異細胞の異常増殖にともなうT細胞不応答化は、T細胞老化の促進に起因しているという極めて興味深い仮説を示唆するものである。次年度以降、上記の遺伝子群のT細胞不応答化における役割を詳細に解析することにより、この仮説の検証とその分子機構の実体を明らかにしていく予定である。
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