本研究では、胸腺におけるTリンパ球の自己識別レパトア形成とりわけ自己寛容成立の機構解明に向けて、胸腺微小環境を形成するストロマ細胞の機能解明に焦点をあてた研究を進めている。本年度は、正の選択をうけた幼若Tリンパ球を髄質へと誘引するCCR7ケモカインの発現と、全身の臓器に発現される多種多様な自己抗原の遺伝子を発現して自己寛容成立に関与する核内因子AIREの産生を指標に、機能的な髄質上皮細胞の分化および増殖を定性的および定量的に評価する技術を確立した。そのうえで、髄質上皮細胞に発現されるサイトカイン受容体のマイクロアレイ解析を行うことで、正の選択をうけた胸腺Tリンパ球によって発現されるRANKLが髄質上皮細胞の増殖を誘導することを明らかにした。また、RANKLと同じくTNFファミリーに属するCD40Lにも同様の機能があることが明らかになった。更に、胸腺髄質上皮細胞に発現されるAIREの役割を明確にする目的で、AIRE遺伝子の発現制御下に蛍光タンパク質を発現するAIRE/GFPノックインマウスを樹立した。このマウスを用いてAIRE発現およびAIRE非発現の胸腺髄質上皮細胞を対象に自己抗原の発現を解析したところ、AIRE依存的自己抗原遺伝子の発現はもっぱらAIRE発現細胞から認められたのに対し、AIRE非依存的自己抗原遺伝子の発現はAIRE発現細胞とAIRE非発現細胞の両方から検出された。他方、免疫組織染色からAIRE欠損マウスのAIRE発現細胞に形態変化と分布異常を認めたことから、AIREは胸腺髄質上皮細胞における一部の自己抗原遺伝子の発現に関わるとともに、胸腺髄質上皮細胞の分化に対しても重要な働きを持つことが明らかになった。
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