胸腺におけるTリンパ球の分化と選択によって確立される中枢性自己寛容は、免疫システムの自己識別能形成に不可欠である。本研究では、研究代表者らが進めてきた幼若Tリンパ球の胸腺内髄質移動を調節するCCR7ケモカインなどの因子同定を基に、組織特異的自己寛容成立における髄質移動ならびに髄質上皮細胞-樹状細胞連携機構の解明を目指している。また、正と負の選択分岐を特徴づける分子シグナルの解析を基に、制御性T細胞の胸腺内生成など自己寛容成立に至る分子シグナル解明を目指している。更に、研究分担者らが進めてきた胸腺髄質上皮細胞に特有の自己分子発現提示に関わる因子Aireの同定と機能解析を基に、Aireを介したTリンパ球分化制御と自己寛容成立機構の全容解明を目指している。 平成21年度にはまず、胸腺皮質上皮細胞に特異的に発現される胸腺プロテアソームは皮質上皮細胞に固有のクラス1MHC複合体レパトアを発現させることで、生体防御に有用で機能的なCD8T細胞のレパトア形成を担うことが明らかになった。また、胸腺髄質上皮細胞の提示する組織特異的自己抗原に対するTリンパ球の排除による寛容確立に、CCR7を介したTリンパ球の皮質から髄質への移動と、皮質と髄質をCCR7非依存性に動き回る樹状細胞が協調することが明らかになった。更に、胸腺髄質上皮細胞に特異的に発現されるAireの機能について、新たにAire遺伝子の発現制御下に蛍光分子GFPを発現するノックインマウスを作製することで解析した結果、Aireは多様な自己抗原が発現できる最終分化段階にまで胸腺髄質上皮細胞を分化させることで自己寛容の成立に関与することが示唆された。
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