葉の発生過程では向軸側・背軸側それぞれを規定する因子の発現領域が厳密に規定されることが必要である。向軸側因子の一つPHABULOSA (PHB)の発現領域はmiR165/166によって規定されている。今年度、裏側表皮細胞でのみ発現するMIR165A遺伝子は背軸側領域の細胞でPHB遺伝子の発現を細胞非自律的に抑制することが明らかになった。さらに、この細胞非自律的な発現抑制は向軸側の細胞でも起こることを示唆する結果を得ている。 他方で、背軸側因子の一つFILAMENTOUS FLOWER (FIL)の発現領域を調節するENLARGED FIL EXPRESSION DOMAIN (ENF)遺伝子群の解析から得られた、ENF1タンパク質の基質となり、向背軸領域形成に関与する化合物を幼植物の茎頂付近からCE-MS/MS解析により検出し、この化合物がSAM周辺で機能することが示唆された。さらに、Cre-loxpシステムを用いた、FILの発現した細胞の系譜解析から、FIL遺伝子は若い葉原基では将来、向軸側組織に分化する細胞でも発現していることが明らかになった。 また、葉の周縁部に特異的な細胞分化に関わるPRESSED FLOWER (PRS)とそのホモログであるWOX1遺伝子の分子遺伝学的解析から、これらの遺伝子が葉の周縁部付近の分化に深く関わっており、向軸側と背軸側の境界の形成に関与すると考えられた。今年度はPRSおよびWOX1遺伝子、並びに、様々な向背軸決定因子群の発現領域を解析した結果、PRSとWOX1遺伝子は葉の周縁部を中心に向背軸境界で発現すること、prs wox1変異体では向背軸決定因子群の発現領域に異常が見られた。この結果は分子遺伝学的解析から予測されたPRS及びWOX1遺伝子の機能を支持するものである。
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