研究概要 |
(1)これまで知られている分泌型ペプチドホルモンの翻訳後修飾には,細胞増殖に関与するPSKやPSY1ペプチドに見られるチロシン硫酸化と,茎頂メリステムの構築に関与するCLV3などに見出されているプロリンのアラビノシル化がある.これらのうち,チロシン硫酸化には,ゴルジ体に局在する特異的酵素(tyrosylprotein sulfotransferase(TPST))が関与するが,TPST遺伝子破壊株(tpst-1)では,根端メリステム(RAM)活性が顕著に低下し,根が極端に短くなることが昨年度までの研究により明らかになっている.しかしtpst-1のRAMを詳細に観察したところ,PSKおよびPSY1ペプチドの培地への添加では細胞神長活性は回復するが,細胞分裂活性はほとんど回復しなかったため,未知の硫酸化ペプチドがRAM活性の維持に重要な役割を担っていることが強く示唆された.そこで我々は,既知のチロシン硫酸化ペプチドの硫酸化モチーフ配列を参考にしたin silico遺伝子スクリーニングとnano LC-MSを用いた成熟型ペプチド構造解析,およびtpst-1を用いた生物検定によって,RAM活性の維持に関与する硫酸化ペプチドをスクリーニングした結果,PSKおよびPSY1の存在下においてtpst-1のRAM活性をほぼ野生型にまで回復させる新しい硫酸化ペプチド群を見出した.このペプチドファミリーはQCおよびコルメラ幹細胞付近でのみ発現しており,1nM程度の低濃度で活性を示した. (2)CLV3やCLFペプチドファミリーの少なくとも一部には,生理機能に重要な翻訳後修飾としてプロリン残基のアラビノシル化が見出されているが,今後さらに生理実験や受容体結合実験を行なうためには,化学合成ルートを確立し,サンプル量の確保を行なう必要がある.これまでに,アラビノシル化ヒドロキシルプロリンの立体選択的合成を完了しており,現在ペプチド鎖に導入するための条件検討を行なっている.
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