本研究では、花成を中心とした茎頂メリステムの相転換と器官形成が成熟した器官が生成する長距離作用性シグナル分子を介して統合的に調節される過程の分子基盤を明らかにすることを目指し、(1)FT遺伝子の産物(mRNA・タンパク質)の生成とFTタンパク質の輸送を制御する分子機構の解明、(2)茎頂メリステムにおけるFTタンパク質の作用機序の解明、(3)茎頂メリステムの老化と活動停止による個体の老化など、これまで研究されなかった生理過程における新規の長距離作用性シグナル分子の探索をおこなう。 (1)に関しては、これまでに、mRNAが輸送形態としては必須ではないことを明らかにするとともに、発現を誘導した24時間後には茎頂部でFT-T7タンパク質が検出できることを確認した。これに関しては、当初の計画よりやや進捗が遅れたが、一部経費の繰越しにより、平成20年内に論文公表に漕ぎ着けることができた。(2)に関しては、茎頂メリステムの細胞内におけるFTタンパク質とbZIP転写因子FDとのタンパク質間相互作用をBiFC法により可視した。予備的な結果ながら、両タンパク質間の相互作用には、茎頂メリステム内の領域によって異なる制御がある可能性が示唆された。さらに、リン酸化に関わるCDPK分子種の探索を進め、茎頂において発現し、FDタンパク質と相互作用するCDPKをいくつか特定している。芽生えの茎頂部においてFTタンパク質の制御下で転写が促進される遺伝子の探索をマイクロアレイ解析により進めており、SOC1遺伝子がFTタンパク質の直近の制御下にあることを確認した。FTタンパク質の新規の相互作用因子として転写制御因子TCPタンパク質を見いだした。(3)に関しては、研究開始早々に出来した不測の外部的事態の余波もあり、着手が遅れているが、平成21年度には着手できる見込みである。
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