研究領域 | 細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生 |
研究課題/領域番号 |
19H05671
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
中島 敬二 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80273853)
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研究分担者 |
稲見 昌彦 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (00345117)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 根 / 器官成長 / 根冠 / 周期性 / 細胞動態 |
研究実績の概要 |
(1) 根端メリステムにおける細胞分裂と細胞伸長動態の定量化: シロイヌナズナの根は内的・外的因子に応じた可塑的な成長を示す。この可塑性は根端部における細胞の分裂と伸長を緻密に制御することで実現されていると考えられるが、その実態は不明である。これまでの研究により、伸長中の根の先端における細胞動態を可視化するライブイメージング技術を開発した。今年度は公募班の陳教授らとの共同研究により、動画中の細胞分裂イベントを細胞列の系譜に関連づけて自動的に抽出するAIツールを開発した。 (2) 根系構造の基盤となるRoot clockの環境応答: 側根原基の周期的な形成は、根端部での自律的な遺伝子発現振動、すなわちRoot clockにより決定され、その周期性はオーキシン応答レポーターであるDR5-Lucの発現振動として観察される。制御された光条件下でDR5-Lucの発現を長時間観察する系を確立し、さらに上田班の近藤助教との共同研究により周期の定量化ツールを開発した。これを用いた解析から、Root clockの周期性が光などの生育条件に応じて変化することを示唆する結果を得た。 (3) 根冠細胞の周期的ターンオーバーと機能発現: 根冠を構成する細胞群は、最内層における細胞新生と、最外層における細胞剥離によりターンオーバーしている。今年度の研究において、膜交通やオートファジー、あるいは分泌性細胞壁分解酵素が、根冠細胞層に特異的な機能発現や、ターンオーバーに機能することを明らかにした。また根冠やそれに隣接する表皮細胞に特異的な代謝経路やプログラム細胞死が、根の耐病性発現に重要な機能を果たすことを示唆する結果を得た (4)根の発生研究を支援する人間拡張工学技術の開発(研究分担者の稲見グループ):根端分裂組織の内部を歩行しながら観察するためのVR技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動体トラッキング顕微鏡を用い、根端の細胞分裂動態をライブイメージングする技術を確立した。公募班の陳博士らとの共同研究により、ライブイメージングの動画データから深層学習を用いて分裂中の核と分裂していない核を自動的に検出する技術を確立することが出来た。また根冠動態のライブイメージングをもとに、根冠細胞の周期的な運命転換において、時空間的に制御されたオートファジーの活性化が重要な役割を果たすことを明らかにし、プレプリント論文として公開することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 根端メリステムの細胞動態イメージデータを定量化するツールの開発 水平光軸型動体トラッキング顕微鏡と、根の皮層細胞層の核をRFPで蛍光標識した野生型背景の植物ラインを用い、根端メリステムを構成する細胞群の分裂と伸長動態をタイムラプスデータとして収集することに成功した。公募班員の陳博士らと共同開発している動画データの画像処理システムを完成させ、これを用いて定常状態における根端メリステムにおける細胞群の分裂と細胞伸長を精密に定量化する。さらに環境因子と細胞動態の関係を解析する。 (2) 根冠細胞のターンオーバーを制御する遺伝子の探索 シロイヌナズナ根冠細胞の周期的な成熟と剥離に主要な機能を果たすBRN1/2転写因子の時空間的発現パターンを決定する上流因子を探索するため、蛍光マーカーラインを用いた変異体スクリーニングを行い、複数の候補ラインを得ている。それらの責任遺伝子をマッピングと次世代シーケンサーを用いた解析により探索する。また時空間的に制御されたオートファジーが、根冠細胞の規則的な剥離に果たす役割を、ライブイメージングと変異体解析から明らかにする。 (3) 根冠細胞の分化と成熟過程を網羅した一細胞トランスクリプトーム解析 根冠の分化段階に沿ったトランスクリプトーム変化を精密に解析するため、一細胞トランスクリプトーム解析の方法を確立する。FACSによる核のソーティングと、droplet方式のシングルセルバーコーディング法を用いて、根冠細胞のシングルセルトランスクリプトームマップを作成する。
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