研究領域 | 細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生 |
研究課題/領域番号 |
19H05672
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塚谷 裕一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90260512)
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研究分担者 |
堀口 吾朗 立教大学, 理学部, 教授 (70342847)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 葉原基 / 細胞分裂動態 / 輪郭形状 / エボデボ / 数理解析 |
研究実績の概要 |
アワゴケ属では、水陸両生種か陸地種かで気孔系譜での増幅分裂の有無が分かれることを、私達は2021年にPNASで報告した。その時にその分子機構に関して提唱した仮説に基づき、シロイヌナズナ形質転換系を作出して気孔系譜の解析を進めた。 またシロイヌナズナの葉が、花器官とは全体形状も分裂組織の位置も異なる点について望月班と共同で解析した結果、分裂組織の位置変化が器官形状の違いの大半を説明すると判明した(Kinoshita et al. 2022a)。 2枚の子葉の間で競争し、勝者となって無限成長能を獲得した1枚の子葉で一生をすごすモノフィレアで、植物ホルモンの作用を調べた結果、子葉2枚での競争は、オーキシンやサイトカイニン量の差異に反映されている可能性を見出した(Kinoshita et al. 2022b)。 一方で、ヤブカラシの花床が橙色と桃色の間で繰り返し色変化する現象を見出した。花色が一度変化する例は数百種で知られているが、周期的変化を繰り返す例は初である。その色変化の背景にカロテノイドの蓄積と分解の周期性も認めた(Furukawa et al. 2022)。 シロイヌナズナfugu5変異体の細胞分裂低下や分化異常について解析した結果、分化異常に関しては細胞自律的と判明した(Gunji et al. 2022)。シロイヌナズナ花茎においては、維管束が茎の一体性の確保に果たす役割を解明した(Asaoka et al. 2022)。またゼニゴケのMpYAK1は、細胞増殖のみならず栄養シグナルや成長相転換にも関わっていた(Shinkawa et al. 2022)。上田班との共同研究で、ゼニゴケの精子形成過程におけるミトコンドリア数の制御に関し、オートファジーの寄与についてまとめた(Norizuki et al. 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画はほぼ順調に進んでおり、加えて当初予定していなかったヤブカラシの花色に関する周期性の発見なども加わって、成果が広がりを見せている。
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今後の研究の推進方策 |
アワゴケ属において、水中・気中葉の作り分けをする種と陸地種とを比較した結果、2021年のPNAS論文で提唱した、気孔系譜制御の多様化に関する仮説について、シロイヌナズナを用いた形質転換系の比較解析を進めたところ、ほぼ妥当であることが検証できた。そこでこれについて詰めのデータを取って、論文化をすすめる。ミズハコベのゲノム情報の解析も完遂し、これも論文化をすすめる。 また、葉が花器官と形状も分裂組織の位置も異なる点について、望月班との共同によるシミュレーション解析から、分裂組織の位置の移動が、器官全体の形状の違いの大部分を説明することを示すことができた(Kinoshita et al. 2022)。これを踏まえて今年度は、今回のシミュレーションでは実現できなかった、特定の葉形態について、どういった分裂組織の挙動がその実現に必要なのかを、数理的に追求する。 さらに、SAMが特殊化し、葉の分裂組織と一体化したかのような性質を示し、SAMからの周期的な葉原基形成をする代わりに一生を無限成長する一枚の葉ですごすMonophyllaeaについて、その特殊化した分裂組織の性格を分子レベルで解明する。またそのゲノム情報を解析し、論文化をすすめる。 補償作用に寄与するオーキシンホメオスタシスと連動した代謝産物の変動については、引き続きトランスオミクス解析をすすめる。 稲見研と開発したマグニフィンガー等についてはその利活用を推進する。
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