研究実績の概要 |
受精卵は個体発生の原点である。しかし植物では、受精卵内部でどのような因子が、どのような現象を制御するのか、いまだほとんど分かっていない。その大きな要因として、花の奥深くに存在する受精卵において、細胞内部を生きたまま観察する手法がなく、細胞内で生じる微細な現象、特に周期的に変化する動態を捉えることが困難であることがあった。そんななか、研究代表者らはシロイヌナズナを用いて、植物の受精卵の内部を高精細にライブイメージングできる方法論を構築し、主要なオルガネラの一つであるミトコンドリアが、細胞周期の進行に応じて形態を変化させることを見出した(Kimata et al, 2020)。受精後にミトコンドリアはアクチン繊維に沿って縦に長く連なった構造をとり、受精卵の上側に偏るが、細胞周期が進行して核分裂期に入ると、この連なりが一過的に解消されて点状のミトコンドリアに変化する。さまざまな阻害剤や画像解析を用いた検討によって、このようなミトコンドリアの形状や分布のダイナミックな変化が、受精卵の非対称性や体軸の構築と不可分の現象であることも示唆された。さらに、未受精卵が作られる際の細胞内動態の可視化や、受精後に働く遺伝子の解析も進めたことで、植物の受精後に起こる現象や仕組みについて理解が深まった(Susaki et al, 2021; Antunez-Sanchez et al, 2020)。得られた成果について、学術誌で公表するだけでなく、多くの国内外の学会やセミナーでも発表し、大きな反響を得た。
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