研究実績の概要 |
受精卵は多細胞生物における個体発生の原点である。しかし植物では、受精卵や初期胚が体軸形成を行う過程において、細胞内でどのような変化が起こるのか、特に、周期的な動態がどのように変調・制御されるのか、ほとんど分かっていなかった。その理由としては、被子植物の花の奥深くに存在する受精卵や胚を生きたまま観察する手法がなかったことと、従来の遺伝学的スクリーニングは、致死性や冗長性のために鍵遺伝子を見出すには不充分だった点が挙げられる。そんななか、研究代表者らはシロイヌナズナを用いて、細胞内動態の詳細なライブイメージングを進めた。特に、精細胞マーカーと卵細胞の細胞膜を特異的に標識した株を掛け合わせ、受精後の動態を詳細にライブイメージングした結果、精細胞と卵細胞が融合した部位に精細胞膜の残骸が持続的に観察され、精細胞侵入点の位置を追跡可能であることを見出した。さらに、受精卵の細胞膜と核を蛍光標識した株についてもライブイメージングを行い、精緻に定量化した結果、受精卵は一定の速度で細胞伸長したあと、一過的に速度を増加させた後に非対称分裂するという、変調を経ることを見出した(Kang et. al., 2023)。加えて、受精後に細胞内で起こるオルガネラ局在や細胞骨格のダイナミックな変化を一元的に比較する方法論も確立したことで、受精卵上部に集積する微小管と、株に移行する液胞が極性形成に重要であることを突き止めた(Hiromoto et. al., 2023)。これらの成果をまとめ、国内外に広く紹介した(Matsumoto and Ueda, 2024)。
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