研究領域 | 細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生 |
研究課題/領域番号 |
19H05677
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小田 祥久 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30583257)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 微小管 / 細胞壁 / 道管 / 液液相分離 |
研究実績の概要 |
植物は移動能をもたない細胞で構成されるため、植物の発生は個々の細胞が連携して分裂、成長、分化する一連の挙動の集積によって成し遂げられる。植物細胞の挙動は細胞表面に沈着する細胞壁の沈着パターンに依存しており、個々の細胞は細胞タイプごとに固有の細胞壁の沈着パターンを構築している。道管の細胞は植物が根から吸収した水を輸送するため、細胞表面に厚く丈夫な細胞壁を螺旋、網目、孔紋状などの秩序立ったパターンに沈着する。道管の細胞表層では微小管が形成する周期的な配列に、低分子量Gタンパク質ROPの活性化反応が変調を与えることによって細胞膜上に複合的な周期が生じ、これが道管に特徴的な細胞壁の周期パターンの鋳型となる。本研究ではこれまでに研究代表者が明らかにしてきた細胞壁パターンの制御を手掛かりに、研究代表者がもつ道管分化誘導系や周期ドメインの再構築実験系と、領域のイメージング技術、数理・情報工学を融合することにより、道管分化における周期ドメインの時空間的な変調を精密に解析してきた。今年度の研究では、本研究課題で開発した、機械学習を取り入れた細胞壁パターンの解析ソフトを実際のデータ解析に投入し、様々な変異体の細胞壁パターンの空間周期性を解析した。変異体を細胞レベルで解析するためのマーカーラインおよび道管の異所的誘導系の導入を行い、細胞壁パターンの空間周期性の創出に伴う細胞骨格の動態を、細胞骨格制御因子の液液ー相分離に着目して解析した。その結果、微小管に付随したタンパク質の相分離が微小管の動態、さらには細胞壁の周期性を制御していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、本研究課題で共同研究者と共に開発した機械学習を取り入れた細胞壁パターンの解析プログラムを実際のデータ解析に用い、様々な変異体の原生木部道管および後生木部道管の二次細胞壁パターンの空間周期性を解析した。変異体を細胞レベルで解析するため新たに設計した蛍光タンパク質を融合したマーカーラインおよび道管の異所的誘導系の導入した系統を選抜し、細胞壁パターンの空間周期性の出現に伴う細胞骨格の動態を解析した。さらに細胞骨格とその制御タンパク質の細胞内での詳細な空間配置と動態を共焦点顕微鏡を用いて解析した。その結果、微小管に付随したタンパク質の液液相分離が細胞壁パターンの周期性を制御しているという新知見を得た。これらはおおよそ計画通りの進行であり、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は共同働開発した機械学習の解析プログラムをさらに改良し、短時間により多くのサンプルを高い精度で解析できるようにアップデートする予定である。このプログラムを用いて今後さらに単離する予定の変異体群の原生木部道管および後生木部道管の二次細胞壁パターンの空間周期性を解析する。二次細胞壁の周期性を制御する因子、特に微小管に付随して液液相分離を引き起こすタンパク質に関して、詳細な動態を明らかにするほか、液液相分離をもたらすドメインの解析を行う。また、各種阻害剤による細胞内局在への影響を調べることにより、そのタンパク質の作用機序を明らかにする予定である。二次細胞壁の周期性制御因子の相互作用因子の候補に関しても機能的な解析を進める予定である。これらの因子の多重変異体を作出し、それぞれの変異体背景における相互作用因子の細胞内局在を調べることで、両者の遺伝学的な関係性を明らかにする。植物体の道管に加え、異所的な道管誘導系も併用して両者の局在を観察する予定である。タンパク質の性質についてはin vitroでの解析も行う予定である。
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