研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
19H05696
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川村 隆一 九州大学, 理学研究院, 教授 (30303209)
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研究分担者 |
筆保 弘徳 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (00435843)
山本 勝 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (10314551)
富田 裕之 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (10435844)
森本 昭彦 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (80301323)
柳瀬 亘 気象庁気象研究所, 台風・災害気象研究部, 主任研究官 (80376540)
宮本 佳明 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 講師 (90612185)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 台風 / 爆弾低気圧 / 黒潮・黒潮続流 / 予測可能性 / スケール間大気海洋相互作用 |
研究実績の概要 |
台風:(1)甚大な災害をもたらした令和元年東日本台風の高解像度シミュレーションを行い、温帯低気圧化に伴う湿潤対称安定性の減少と温暖前線形成が台風の北側に降水を集中させていることを明らかにした。(2)大規模アンサンブルデータセットd4PDFと台風発生環境場診断手法TGSを用いて、現在気候と将来気候における台風発生環境場の変化、さらに台風の特徴の変化を統計的に調べた。また海洋モデルとクーリングパラメータを用いて、2019年台風15号と19号による海洋変化を調査した。(3)2019年台風15号が上陸直前まで強い強度を保持した理由を数値シミュレーション結果に基づき明らかにした。これとは別に台風による海塩粒子の輸送過程も調べた。(4)台風への黒潮の遠隔影響について黒潮の海面水温(SST)感度実験を実施し、黒潮SSTの能動的な役割を評価した。 爆弾低気圧:(1)理想化した大気大循環モデルを用いて、縁辺海および黒潮続流域の海面熱フラックスが低気圧活動に与える影響(特に爆弾低気圧や二つ玉低気圧)とそのモデル解像度依存性を明らかにした。(2)領域同位体循環モデルを用いて日本海低気圧の水蒸気起源を調査した結果、低気圧中心近傍の潜熱加熱をもたらす水蒸気の起源に交替が生じている事が明らかになった。 現場観測・衛星リモセン:(1)平成30年度豪雨の後に豊後水道の広域において表層水温が急激に低下した。数値モデルにより再現計算を行い解析した結果、豪雨に伴う降雨と河川水の供給により豊後水道北部の密度が低下しその結果重力循環が強化され外洋の低温水塊が水道内へ供給されたことが分かった。(2)海面熱フラックス推定に必須である海上比湿の衛星推定手法の改良を行い、台風時だけでなく爆弾低気圧時の推定が可能になった。台風時の航空機観測との比較から推定の信頼性を確認した。総観規模擾乱に対するフラックス応答を論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒潮域のホットスポット上または近接海域での台風の極端事例の解析が多方面で進んだ。たとえば、2019年台風Faxaiの上陸前は台風的な渦構造を持ち理論限界強度(MPI)を超えていたこと、台風Hagibisの降水の非対称化は台風の温帯低気圧化に伴う2段階のメカニズムが働いていたこと、秋台風が南西諸島付近を北上中に、黒潮流域の海面水温(SST)偏差の影響を既に受けていることなどが明らかになった。また、縁辺海から黒潮域まで広がるホットスポットが日本付近の低気圧の特性(爆弾低気圧・二つ玉低気圧)を決定づける主要因の一つであることも明らかになりつつある。 一方、海洋応答についても新たな知見が得られ始めている。たとえば、SST低下量は台風の特徴や海洋状態の何が効いているのかという問題に対して、クーリングパラメータと水温変化には相関がみられることや、バイオロギングによる数時間毎の水温プロファイルから、2009年台風20号では70m深まで1~2℃の水温低下が観測されていること、東シナ海陸棚上を台風が通過した場合の陸棚上の海洋の応答が物理モデルと低次生態系モデルで明らかにされつつある。 ストームと海洋のインターフェイスである海面熱フラックスの推定では、衛星マイクロ波放射計の観測(輝度温度)に基づく海上大気比湿推定手法を開発が進行中で、既存の方法と比較して欠測率が大幅に向上し、台風時の観測では80-90%をカバーできることが確認されている。 爆弾低気圧・台風活動の長期変動については、大規模アンサンブルデータセットの現在気候実験にみる台風活動の長期変動や、爆弾低気圧予測可能性の長期変化の解析が進められている。 各研究の進捗状況を総合的に評価すると、当初の計画以上に進展している研究が多くある一方、成果の論文化が若干遅れ気味の研究も一部あることから、自己評価は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
台風:①「熱帯低気圧化」について、広域高解像度非静力学シミュレーションを利用して大気プロセスと海面からの熱供給の影響を解明する。特に北太平洋西部の事例をターゲットとし、北大西洋の事例との比較を行う。②大規模アンサンブルデータd4PDFと台風発生環境場診断手法TGSを用いて、現在気候における台風発生環境場を統計的に調べる。また海洋モデルを用いて台風の特徴による海洋影響の違いを調べる。③台風の海塩粒子の輸送解析を継続する。また湿潤対流にエアロゾル(海塩粒子)が与える影響について、精緻な雲物理モデルを用いてエアロゾルを考慮したパーセル理論を構築して明らかにする。④台風への黒潮の遠隔影響の熱力学プロセスの普遍的理解を進める。また台風ボーガスのアンサンブル実験を実施し梅雨前線帯への影響評価を行う。 爆弾低気圧:①縁辺海ホットスポット上の爆弾低気圧や二つ玉低気圧の理想化実験を行ない、現実大気の間の共通性や個々の事例の多様性を明らかにする。またメソ気象モデルから前線上の降水の海面水温依存性を調査し、海面水温の近接・遠隔作用の観点で整理する。②d4PDF温暖化実験にみる爆弾低気圧活動予測の不確実性を評価する。③領域同位体循環モデルを用いて日本海低気圧と南岸低気圧の水蒸気起源の系統的な違いを明らかにする。 現場観測・衛星リモセン:①台風経路の違いによる黒潮流軸の応答を調べ、台風による黒潮流軸変動のメカニズムを明らかにする。台風の黄海通過時の海面水温低下の継続時間と成層の回復プロセスを調べ大気への影響を検討する。また台風や冬季の吹き出しに伴う対馬暖流の応答を調べるため山陰沖に2台の係留系を設置する。②台風・爆弾低気圧時の衛星海面フラックス推定手法の改良や検証を継続する。さらに2012年以降の台風や爆弾低気圧の多数事例で推定を行い、海面乱流熱フラックスの分布や変動の特徴を包括的に調査する。
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備考 |
2020/09/09 NHKクローズアップ現代:台風10号について(宮本佳明) 2020/11/29 NHKサイエンスゼロ:台風発生研究紹介(筆保弘徳)
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