研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
19H05701
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
野中 正見 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), グループリーダー (90358771)
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研究分担者 |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
東塚 知己 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (40376538)
笹井 義一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 主任研究員 (40419130)
佐々木 英治 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 主任研究員 (50359220)
碓氷 典久 気象庁気象研究所, 全球大気海洋研究部, 主任研究官 (50370333)
小守 信正 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 臨時研究補助員 (80359223)
田口 文明 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 教授 (80435841)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 大気海洋相互作用 / 黒潮・黒潮続流 / 経年変動 / 予測可能性 / 海洋渦・海洋前線帯 |
研究実績の概要 |
海洋中規模渦を解像する準全球の海洋データ同化システムJCOPE-FGOを開発し、1993年から2021年までの海洋再解析データを作成した。大気再解析データJRA-55による日毎の河川流入データを取り込んでいることもこ大きな特徴である。この再解析データは海面水温等の基本場の他、海洋中規模渦の活動度の水平分布も良く再現している。経年変動についても観測データと比較して海面高度だけではなく渦運動エネルギーについても高い再現性を示している。但し、南大洋等では再現性が限定的な海域もあり、更なる改良の余地もある。 気象庁で用いる台風強度予報の統計ガイダンスTIFSでは、海面水温と海水温26℃以上の海水の海洋貯熱量を用いる。現業のTIFSでは海面水温と海洋貯熱量を初期値に固定しており台風に対する海洋応答が考慮されにくい。そこで海洋モデルでの予報値を用いることで台風に対する海洋応答(海面水温や海洋貯熱量の低下)を考慮した擬結合TIFS実験を行ったところ、台風の中心気圧の3~5日予報が10%程度改善することが示された。 また渦解像海洋モデルに組み込んだ低次生態系モデル結果から、黒潮続流が安定した時期にはその南側では植物プランクトンが減少し、これが亜表層では夏から秋にかけても継続することが解明された。海面での植物プランクトンの変動は人工衛星観測で示されていたが、表層下で夏以降にもそのシグナルが残ることが初めて明らかにされた。 北太平洋と北大西洋の大きいスケールで海面塩分の季節変動をみると、中緯度域では東西に顕著なコントラストが見られ、西部では夏季に低塩分化、冬季に高塩分化するが東部ではその逆となる。海洋混合層内での塩分収支の詳しい解析から、西部では東アジアモンスーンの影響で蒸発・降水の変動が大きいが、東部では降水と蒸発が相殺して変動が少なく混合層の変動が重要となることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に記述するように、研究計画に沿って順調に研究を推進し、成果を創出している。黒潮域を含め準全球の海流や渦活動を解像可能な海洋再解析データを作成し、その精度を確認することが出来た。このデータは今後海流や海洋渦の経年変動の解析等に限らず幅広い研究に供する予定である他、これを初期値として海流や海洋渦活動度の予測研究を行う計画である。 中緯度域の海洋構造の大気への影響として、台風への影響に注目し、気象庁の現業で利用されている台風強度予報の統計ガイダンスに、これも現業で利用されている海洋モデル予報値を用いることで台風強度の3~5日予報が10%程度改善されることが示された。これは2020年の全台風を対象とした実験結果であり、現業で用いられているシステムにおいて、海洋変動の台風への影響が明確に示されたことの意義は大きいと思われる。 また、黒潮続流の流路の安定性が海洋生態系へ及ぼす影響についても、渦活動を解像可能なモデルを用いることで、人工衛星からは観測不可能な表層下の植物プランクトン濃度に、春季だけではなく夏季から秋季にも影響が残ることが初めて明らかにされた。海面の観測だけでは捉えきれない変動が明らかになったことは全球的な炭素循環等の理解の精度を上げるうえでも重要な成果であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、本研究課題では6つのサブテーマを有機的に連携させながら推進する。これらの要素は互いに密接に関連しており、この体制により、海洋前線帯の変動とその役割について統合的な理解深化が可能となる。以下、6つのサブテーマ毎に具体的な計画を記述する。 1.湧昇及び前線帯の形成機構:亜熱帯域と亜寒帯域を結ぶ海流構造とそれに伴う海洋前線構造の形成において海底地形が影響を及ぼす機構を詳細に調べるため、複数の海底地形データを用いた高解像度海洋モデル実験を実施し、その相違を解析する。 2.海洋微細現象の形成過程:北太平洋域における水平解像度約1kmの超高解像度海洋モデル経年積分を行う。 3.微細現象を含む海洋前線帯の変動に対する生物生産や水塊、物質循環の応答:2種類の低次生態系モデルを組み込んだ渦解像北太平洋海洋モデルの過去再現実験を実施し、その比較を行うとともに、黒潮続流域の経年変動が生態系に及ぼす影響の解析を進める。 4.海流と海洋渦活動の経年変動の予測可能性の評価と変動機構:昨年度までに作成を進めた1993年以降の準全球渦解像再解析データを初期値と して、2年先までを予測する過去予測実験を実施し、海流や渦活動の経年変動の予測可能性を調査する。 5.黒潮・親潮続流等の海洋前線変動と大気の相互作用、及びそれが予測可能性に果たす役割:黒潮等の海洋構造の変動を考慮することが大気予測に及ぼす影響を解析するとともに、日本海の海洋長期変動機構と大気変動との関係に関する解析を進める。また、大気大循環モデルを用い、 内海が大気へ及ぼす影響の調査を行う。 6.海洋塩分分布形成機構:北太平洋と北大西洋の海面塩分の季節変動の東西コントラストの形成機構とその海洋表層下への影響に関する解析を推進する。
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