研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
19H05709
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阪井 康能 京都大学, 農学研究科, 教授 (60202082)
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研究分担者 |
奥 公秀 京都先端科学大学, バイオ環境学部, 准教授 (10511230)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | オートファジー / 液胞 / ミクロオートファジー / リソソーム |
研究実績の概要 |
ミクロオートファジーとは、細胞質成分をリソソーム(液胞)膜の変形によりその内部へと輸送する過程を指し、マクロオートファジーや他のオートファジー経路と共に多様な生物で見出されている。このミクロオートファジーについて、他のオートファジー経路との連関も含めた分子機構の解明が本課題の研究目的である。 本年度は、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおける脂肪滴を標的とするミクロオートファジー、ミクロリポファジーについて特に研究の進展があった。これまでの研究から、酵母では生育炭素源の変換・増減(グルコース>エタノール>エタノール欠乏)に応じて、異なる様式のオートファジーが順次起こることが報告されており、その中でもエタノール欠乏時にミクロリポファジーが顕著に観察されていた(Iwama and Ohsumi, J. Biol. Chem., 294, p.5590-5603, 2019)。本年度の本課題研究においては、まずエタノール欠乏時のミクロリポファジー誘導による脂肪滴分解と液胞膜タンパク質分解を生化学的に検出する解析系を構築した。多くのオートファジー関連遺伝子やユビキチン修飾酵素をコードする遺伝子の破壊株においてこの解析系を適用した結果、ミクロリポファジーに関与するユビキチン修飾酵素を見出した。興味深いことに、脂肪滴分解には関与するが液胞膜タンパク質分解には寄与しないユビキチン修飾酵素の存在も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特定のオルガネラを標的とするミクロオートファジーの分子機構としては、標的オルガネラをリソソーム(液胞)膜がとらえる過程と、リソソーム膜が変形する過程の少なくとも2つの過程が存在する。このうちで、後者のリソソーム膜変形については、特に酵母をモデル生物とした本課題研究者の実験等によりESCRTと呼ばれるタンパク質の関与が明らかとなってきた(Oku et al., J. Cell Biol., 216, 3263-3274、2017)。一方でリソソーム膜がどのようにして液胞膜を捉えるのか、という点についてはその分子機構は明らかとなっていない。これはマクロオートファジーにおいてオートファゴゾーム局在蛋白質Atg8と標的オルガネラとの様々な相互作用機構が解明されているのとは対照的である。 本年度の研究成果で、液胞膜タンパク質の分解には寄与しないが脂肪滴タンパク質の分解には作用するユビキチン修飾酵素が見つかったことは、この修飾酵素が液胞膜ではなく脂肪滴側のタンパク質修飾を通じて脂肪滴分解を支えている可能性を示唆している。すなわちこの修飾酵素による脂肪滴のタグ付けが液胞膜による脂肪滴認識の分子機構であることが示唆されるため、ミクロオートファジーのオルガネラ標的の仕組み解明につながる重要な発見が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度見出したミクロオートファジーに関与するユビキチン修飾酵素の解析については、本酵素欠損株と野生株から脂肪滴を精製し、プロテオーム解析により本酵素欠損株においてユビキチン修飾されなくなる脂肪滴タンパク質を探索する。見出した脂肪滴タンパク質のアミノ酸残基のうちで、ユビキチン修飾を受ける可能性のあるリジン残基を網羅的にアラニン残基に置換し、脂肪滴分解に影響が出るか解析する。また、本修飾酵素変異により、脂肪滴と液胞膜との相互作用が減弱するかどうか、蛍光顕微鏡を用いた解析により明らかにする。 ペルオキシソーム標的オートファジー経路として、ミクロオートファジー様式とマクロオートファジー様式の2つの分解様式を持つメタノール資化性酵母Komagataella phaffii を用いた研究については、これまで着手できていなかったマクロオートファジー様式での機能因子スクリーニングを行う。具体的には、蛍光標識されたペルオキシソームタンパク質由来の蛍光強度をモニターすることでペルオキシソーム分解が阻害、遅延する株を取得する実験系を構築し、マクロオートファジー様式が主となるエタノール炭素源条件下でスクリーニングを行う。マクロオートファジー様式のみに阻害が見られる変異株を取得できれば、その株を基にさらに新たなペルオキシソーム分解不全変異株を探索することで、ミクロオートファジー機能因子の同定を目指す。
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