研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05715
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 隆史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70214377)
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研究分担者 |
牧浦 理恵 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (30457436)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 水圏機能材料 / 液晶 / 超分子 / ハイブリッド材料 / 分子集合体 / 自己組織化 / イオンチャネル / 界面 |
研究実績の概要 |
液晶分子が形成するナノ規則構造を活用し、水圏で機能する水処理膜を構築した。液晶の分子構造と自己組織化集合構造の関係解明を坂本(研究協力者)と進め、水処理膜により適した2次元水チャネル構造を有するナノ構造水処理膜を開発した。得られた水処理膜は多様なウイルスに対する高い除去率と高い透水性を示した(論文投稿中)。また、A02-2鷲津(計画・研究代表者)、A02-2渡辺(計画・研究分担者)と分子動力学シミュレーションを活用することにより、2次元チャネルを形成する液晶分子の自己組織化構造、および相転移にともなう液晶分子のコンホメーション変化を明らかにした(ChemPhysChem誌)。 水環境合成による水圏ハイブリッド材料(有機無機融合材料)の開発を行った。バイオミネラルの形成機構にならう手法により、酸化コバルトの一次元集合体を構築した(Cryst. Growth Des.誌)。また、結晶配向が制御された酸化亜鉛の薄膜を得ることに成功した(Polym. J.誌)。福島(研究分担者)と協力して新規分解性ポリマーを開発した(Macromolecules誌)。 牧浦(研究分担者)は、加藤(研究代表者)、内田(研究協力者)と水と液晶の界面(水圏界面)における分子配列制御を活用して、液晶水界面分子センサーを開発した(論文投稿中)。水圏界面における2次元錯形成反応を利用した配向錯体ナノシートにおいて,溶媒種と水の相溶性がナノシートの形態に影響を与えることを明らかにした(Bull. Chem. Soc. Jpn.誌)。さらに,A01藤野(公募・研究代表者)と共同で,水や酸素を含む大気中でも安定なアンバイポーラ型半導体を実現した(J. Am. Chem. Soc.誌)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加藤(研究代表者)の基盤技術である超分子・分子集合体および液晶材料の設計合成技術を駆使して、選択的な輸送機能・分離機能を発現するイオン機能性液晶を創製した。坂本・内田(それぞれ研究協力者)と協力し、これらの分子の集合構造制御・配列化・重合を行い、イオン性官能基からなるナノチャネル構造を有する自己組織化薄膜を形成させた。これらは従来の棒状重合分子からなる液晶水処理膜よりも優れた分離性能を示した。さらに、A02鷲津(研究代表者)、A02渡辺(研究分担者)とスメクチック液晶の自己組織化構造について分子動力学シミュレーションによる詳細な解析を行い、液晶相における分子コンホメーションやパッキングに関する新しい知見を得た。 酸性高分子および高分子テンプレートを用いる水圏合成により、水圏ハイブリッド材料の開発を行った。酸化コバルトの一次元集合体、および結晶配向が制御された酸化亜鉛の薄膜を得ることに成功した。これは水圏における金属酸化物の合成への道を開いたものである。 水圏界面において、生体認識部位を有するメソゲン分子の気液界面および水/液晶界面における単分子膜形成について、牧浦(研究分担者)と共同して調べた。新たに設計、合成したメソゲン分子を用いて、標的タンパク質を特異的に認識する水/液晶界面を構築した。藤野(公募・研究代表者)と共同して、水圏界面における分子配向制御により,高い移動度を有するアンバイポーラ型半導体のナノシートの作製に成功した。特に、本半導体の成果は水圏においても機能する新しい材料の創製といえる。 これらは、当初目的としている水圏機能材料構築学と水の基礎科学の融合に向けての成果と言え、特に水処理膜の研究は最も本分野融合の成果としてインパクトが大きい。 以上により、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は最終年度でもあり、水圏機能材料の基盤となる分子設計・分子集合体の構築という観点により、さらに高機能性の水圏機能材料を構築して、水圏機能材料の目標であるイオン機能性、バイオ・環境機能性、メカノ機能性を発揮する水圏機能材料を創製し、その学理を追求していく。すなわち、当初からの計画研究および公募研究と共同して、さらに、令和4年から参画した新たな公募研究とも水圏機能材料の創製に向けて共同研究を終了に向けて加速する。 水処理膜およびナノ空間における水の挙動に関して、材料設計コンセプトとその学理をまとめていく。これと並行して、これらの膜のさらなる選択性や、ウイルス・有害化学物質などの有害物の高度な分離性能を向上させる。このためには、A02との共同研究により、ナノチャネル内の水の構造を、水圏共通重水素化化合物(重水など)を積極的に活用し、SPring-8の軟X線測定(A02原田)、赤外分光測定(A02池本)やJ-PARCの中性子散乱測定(A02瀬戸)、テラヘルツ分光(A02菱田)により水分子と液晶分子・高分子の相互作用や、水分子の水素結合構造を明らかにする。また、シミュレーションをより精密化して(A02鷲津、渡辺)、水圏機能材料の学理を構築する。これらをA03と共同して新しい水圏機能性ナノ輸送材料として展開していく。 また、水圏合成により構築する無機有機ハイブリッド異方性微粒子と、A01が合成する様々な機能性生分解性分子・π共役分子・光機能分子・生体機能などを複合化させて、あらたな環境調和材料、バイオ機能材料を構築していく。 A01-1内でも、加藤・牧浦の共同研究により、新たなセンシング機能を有する水圏機能材料を構築していく。さらに、水圏界面を利用して配向制御した液晶分子や有機半導体ナノシートの機能評価を進める。 これらの成果により水圏機能材料構築学として総合化・体系化する。
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