研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05718
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
鷲津 仁志 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 教授 (00394883)
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研究分担者 |
渡辺 豪 北里大学, 理学部, 講師 (80547076)
樋口 祐次 東京大学, 物性研究所, 助教 (30613260)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 水圏機能材料 / 水素結合構造 / 分子動力学 / 分子軌道解析 / 密度汎関数法 / イオン液晶 / 単分子膜 / 自由エネルギー |
研究実績の概要 |
本研究課題は、材料における量子・原子レベル、粗視化分子、流動中の粒子の各階層における水圏シミュレーション手法を創出・融合し、分子機構解析により水圏機能材料を創製するための分子設計指針を提示する。実験解析で得られた知見との相補的な現象理解に基づく水圏機能融合材料の構造・機能を解明し、その設計指針を確立する。 本年度は、昨年度から実施しているA01-1加藤のイオン機能液晶の全原子シミュレーションを展開し、水の自由エネルギー状態の解析を行った。ジャイロイド型とカラムナー型構造の再現に成功し、自己組織化した水圏機能材料中の水の構造・水の透過プロセスを解明した。 A01-1加藤の提案したバイオ共役部位を有する両親媒性分子が形成する単分子膜において、タンパク質吸着プロセスの全原子シミュレーションを行った。タンパク質が吸着した際の膜構造変化、および界面近傍の水分子の動態を明らかにし、共同研究として論文化した。 渡辺はA03-3高島の提案する高分子接着系について、密度汎関数法を用いて、側鎖の電荷と接着強度に関する知見を得た。樋口はA03-3高島のホスト-ゲストゲルに対して、密度汎関数法とイオン溶液に関する理論的考察により、イオン濃度と接着強度に関する知見を得た。 界面の分子シミュレーション技術の確立を目指し、鷲津はマテリアルズインフォマティクスを利用した新規高分子構造表現法を確立した。さらに、鷲津は粗視化粒子シミュレーション手法を進展させ、樋口はソフトマター材料の大規模粗視化シミュレーション技術を発展させた。これら分子シミュレーション技術を用いて、水圏で融合機能発現する材料の研究にも取り組んだ。また渡辺は、原(公募)のGI-XRDを駆使した実験に対して、新奇ならせん構造を有するカラムナー液晶の配向構造、そしてらせん構造形成のメカニズムを分子動力学により解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。理由を以下に列挙する。 イオン機能液晶の全原子シミュレーションについては、水のエネルギーに関してのみならず、拡散挙動をはじめとするダイナミクスについても明らかにし、力場パラメータの違いによらず本解析で明らかにした機構が普遍的であることを示した。自己組織化した水圏機能材料中の水の構造・水の透過プロセスを総合的に解明できたことは、有意義である。単分子膜における、タンパク質吸着プロセスの全原子シミュレーションにおける成果は、水圏機能材料の構造・物性に加えて、水の動態も解明しており、水の学理構築にも貢献したと言える。高分子接着系については、昨年度に引き続いてホスト-ゲストゲルの量子化学的な解析を行うことによって、実験によって示唆された接着強度について理論面から補足し、これらの知見から、材料の制御・設計指針を示した。 マテリアルズインフォマティクスを利用した高分子の高次構造の表現方法は、高分子科学において初めて提案された方法であり、きわめて新規性が高いといえる。さらに、大規模粗視化シミュレーションについて、計算手法を拡張しており、これらの手法のさらに幅広い水圏機能材料への適用が期待できる。 以上のように、材料の構造・物性に関する知見に基づく制御・設計指針の提示、水の動態の解明による水の学理構築、分子シミュレーション技術の発展と、当初の予想を上回るペースで成果が上がっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年においても、当初の計画通りに分子論的な立場から材料の構造・物性と水の動態を解明し、分子・材料の制御・設計指針を示しており、研究計画に大きな変更が必要となるような問題は生じていない。今後も継続して、A01分子・材料構築班、A03機能開拓班との班間連携を密に行うことで、領域全体としての材料の設計・合成から機能発現までの円滑な研究推進に理論面から寄与する。さらに、班内連携により、測定結果(A02-1)と理論(A02-2)の妥当性の検証を相互に行い、水と材料の構造・機能を解明し、水の学理を構築する。 領域全体の目標である水圏機能材料の創製のため、マルチスケールシミュレーションにより以下の研究を実施する。 A01-2辻およびA03-1田中求と連携し、有機半導体の安定性評価・機能増大のための指針提示を行う。人工細胞膜における水の動態と、センシング材料における水和構造を解明する。さらに水の動態に関して溶液の統計力学の観点から深く議論する。A03-2田中賢の提案する生体親和材料の機能評価と最適な組み合わせの探索を行う。渡辺が高分子と界面水の動態解明、鷲津が流動とイオン溶媒和の解明、樋口が高分子とタンパクの接着性を解明し、機能向上のための提案を行う。A03-3高島、A01-1加藤と連携し、異種接着材料およびハイブリッド材料の強化を実現する。有機無機融合による結晶化、高分子の構造と運動、流れと結晶化の観点からマルチスケールの解析を実施し、「水の動態」と「力学特性」の相関解明を行い、分子設計指針を提示する。 さらに、本研究で構築する、分子集合体を基盤とする水圏機能材料に適したMI手法について、これまでに、鷲津が確立した高分子材料の構造の記述法を水圏機能材料に応用展開し、実験についてもデータ解析を行う。
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