研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05719
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 求 京都大学, 高等研究院, 特任教授 (00706814)
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研究分担者 |
中畑 雅樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40755641)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 生物着想分子材料 / 半導体電子材料 / 界面制御 / 電子・イオン機能 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、田中求(研究代表者)の専門である界面制御技術を駆使して、材料と水圏環境の界面水和構造を制御することで「水圏で作動する電子・イオン機能材料」の創製およびそのための基礎学理の確立を目的としている。 中畑(研究分担者)は、植物由来の重金属認識タンパクに着想を得た高分子について、動的光散乱による水和状態のサイズや重金属 (Cd) イオンに対する解離定数KD などの水環境下での基礎物性の計測を行った。 田中求(研究代表者)は、重金属イオンを選択的に捕捉する生物着想材料と半導体電子材料をつなぐための技術基盤として、人工細胞膜の界面における自己組織化を活用し、イオン捕捉分子を固体基板上に表面分子間平均距離約6 nmまで高集積化することに成功した。QCM-D(共通機器)を用いてKD 周辺でのイオン選択的な認識が共鳴周波数や散逸を明確に変化させることを見出すなど、選択的イオン捕捉機能を精密に定量評価する技術基盤を確立した。 論文発表状況としては、Polymer Journalの特集号「Biofunctional Hydrogel」に田中・中畑が共著で刺激応答性ヒドロゲルによる細胞制御に関する招待論文(総説)を令和2年5月に出版したほか、水界面でのゲル化を高エネルギーX線光子相関分光法を用いてその場計測した成果をJ. Phys. Chem. Bに発表した(Supplementary Cover)。また、本研究に関連したテーマである、細胞と水界面における脂質膜の物理学的役割に関する総説を、ミュンヘン工科大学・Sackmann名誉教授との国際共著で発表した。領域内の班間連携の成果としては、中畑とA03-3高島と共に取り組んだ超分子メカノ材料を用いた細胞の動的制御に関する国際共同研究が論文として発表した(Sci. Adv. (2020))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概要に述べたように、田中求(研究代表者)は中畑(研究分担者)と根幹となる分子認識材料や独自の計測技術に関するオリジナル論文を精力的に発表するだけにとどまらず、水界面の物理学という広い視点から細胞の変形や運動を説き起こした国際共著の総説を発表するなど、水圏界面の学理を広く世界に発信している。例えば、中畑とA03-3高島と共に取り組んだ超分子メカノ材料を用いた細胞の動的制御に関する国際共著論文は Sci. Adv. (2020)に発表され、カールスルーエ工科大、京大、ハイデルベルク大から学際的な共同研究の成果としてプレスリリースされた。 さらに田中求と中畑は、新学術領域という枠組みを最大限に活かして、様々な分野の研究者との共同研究を推進している。例えば中畑は、A02-1池本と赤外分光を用いたCdの捕捉による生体着想高分子の水和状態の変化の計測から、水酸基に関連したカルボニルの振動バンドがCdイオン濃度に依存して変化することを見出した。これに加え分子レベルの描像を得るために、中村(A01公募)のNMR解析や渡辺(A02-2)の分子動力学計算といった班間共同研究も現在進行中である。 田中求は、原野(A01公募)と水表面で自己組織化するフラーレン二次元膜の構造を斜入射角X線広角散乱とX線鏡面反射を駆使して精密解析した。また、ストラスブール大学のグループが合成した枝状分子で機能化した固体材料表面極近傍の水和状態を表面力計測を得意とする林(A02公募)と連携して解析するなど、当初の計画よりも速いペースで新学術ならではの異分野融合型の共同研究をダイナミックに展開している。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、界面制御技術を駆使した有機半導体材料の水圏での応用の上で問題となっていた、有機半導体分子層の欠陥を減らすことに取り組む。具体的には、液晶的な性質を付与した有機半導体分子(A01-2辻)を、並進拡散・回転拡散の自由度が大きな水表面で高秩序に配列させた後、これを転写する。水界面での材料の自由度を制御するために、糖鎖(公募研究A01・芹澤)を付与するなど、公募班と密接な連携による分子設計の最適化を行う。 生体着想材料として分子設計したファイトケラチン着想材料については、前年度までに計測した基礎物性に加え、イオン認識機能を限外ろ過で精密定量するなど分子としての水圏イオン機能の定量化を行うとともに、イオン認識機能分子を面積-体積比の大きな微粒子や多孔質材料を用いて高集積化させる。水圏イオン機能を電子信号として検出するため、上記の界面制御技術を駆使した有機半導体材料など電子材料との融合に取り組む。 A01-1加藤らとの共同研究では、水圏のイオンを選択的に輸送する液晶超分子膜の機能を膜内のイオン移動度を窒化ガリウムなどの半導体電極上で電気化学的に計測し、そのイオン選択輸送メカニズムに迫ることを目指す。 領域全体への貢献としては、共通機器である調和水晶振動子(QCM-D)を領域メンバーが有効に活用できるよう、領域会議などの機会を活かして領域メンバーとの議論を進めてきた。材料と水圏環境の相互作用の定量計測・解析の支援が行える体制はすでに整っており、学生や研究者の受入制限が緩和され次第共同利用を開始する。
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備考 |
高校生のためのサイエンスセミナー オンライン開催“物理科学で生命の謎を解明する”主催:洛星中学・高等学校,日時:2020年10月31日
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