研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05720
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 賢 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (00322850)
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研究分担者 |
藤井 義久 三重大学, 工学研究科, 准教授 (70578062)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 中間水 / バイオ界面 / 生体親和性 / 界面ダイナミクス / 密着性 / 界面レオロジー / 合成高分子 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
生体親和性高分子の金属ステント表面への密着性を向上させるために、無機化合物であるランダム型シルセスキオキサン(SQ)とポリ(2-メトキシエチルアクリレート) (PMEA)のハイブリッドSQ/PMEAを新規に設計した。その結果、Qをコアにもつ擬スター構造と疎水的SQ部位の基材へのアンカー効果により密着安定性が向上し、金属基板表面を完全に被覆することができた。また、SQ/PMEA (Si = 5%)は構造由来の高い運動性から、PMEAの中間水形成能を阻害せず、血小板の粘着を抑制した。また、血管内皮細胞の接着・増殖を促進したことから循環器用のステントの創製に有益であることがわかった。また、アルキル基を介してピロリドン環を側鎖に有するアクリレート高分子(PNARP)を新規に設計・合成した。PNARPは、温度応答性を示すとともにポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)よりも血小板の粘着を抑制できた。PNARPは、PMEAと同等の生体親和性を有し、金属表面への密着性はPMEAより優れていることも確認した。生体親和性の異なる水圏材料に対して原子間力顕微鏡、水晶振動子法、軟X線発光分光を用いたマルチプローブ計測を行い、高分子と水の相互作用が水の水和構造に及ぼす影響についても解明した。さらに、精密構造解析の観点から中性子反射率測定に基づき薄膜材料の水和状態と生体親和性との関係について検討行い、これまで水和環境下で安定した薄膜化が困難な高分子種についても評価可能な組み合わせを見出した。走査プローブ顕微鏡による局所的な力学物性解析に基づき、ポリエチレンオキシド薄膜における分子鎖凝集構造と水和状態、水分子の可塑化効果について明らかにした。また、新規な特殊構造高分子だけでなく、汎用高分子を用いて、物理化学的な観点から材料表面の親疎水性と微細な表面形状がタンパク質の吸着特性と関係することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A01(分子・材料構築班)と連携し、生体親和性および金属ステント表面への密着性を示す材料の設計・合成に成功した。また、水和環境における高分子の表面物性および水和構造・運動解析を進展させるために、官能基の構造、位置、量、配列が精密に制御された生体親和性合成高分子の合成を計画通りに行った。また、高分子の化学構造と水和による物理化学的な物性変化を精密に評価するために、水和した高分子の物理化学物性について解析を進めた。水和状態における生体親和性材料の分子鎖凝集状態の精密解析に基づきサブマイクロメートルの面内方向およびサブナノメートルの深さ方向における水分子の詳細な分布と状態が材料機能特性に及ぼす影響について検討を行い、水分子の働きについても知見を得ることに成功した。また、走査プローブ顕微鏡を用いて基板の影響を受けることなく薄膜本来の力学物性を評価する方法を確立、さらには、乾燥および水和状態における薄膜表面のガラス転移温度計測にも取り組み、最終年度の物理化学的な材料物性と中間水量の関係解明に繋げる成果が得られた。さらに、A03内だけではなくA02(先端計測・シミュレーション班)との連携、公募研究との共同研究など、領域内連携を推進したことで、24報の原著論文を出版できた。
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今後の研究の推進方策 |
水圏バイオ・環境機能材料の設計指針の構築を行うために、官能基の構造、位置、量、配列が制御された合成高分子の生体親和性発現機構を明らかにする。機構解明には、プローブ顕微鏡測定、中性子散乱測定、放射光分光、テラヘルツ分光、シミュレーションなどの手法により水和した高分子および高分子に水和した水の状態を定量化する。本年度は、1.含水時に形成される中間水量を制御した合成高分子の金属ステントへの表面処理特性を評価する。2.乾燥および水和状態における高分子のガラス転移温度、弾性率などの物理化学的な材料物性と中間水量の関係を明らかにする。ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)などの重水素化物を用いた中性子計測を行う。3.タンパク質吸着挙動に影響する水和膨潤層の評価を周波数変調型の原子間力顕微鏡により評価する。水和高分子の空間分布変化、水の吸着サイト、水の水素結合ネットワーク構造との関係を考察し、水圏機能材料構築の学理を深める。複数の公募研究と連携して水圏における高分子の表面物性および水和構造・運動性解析とタンパク質の吸着・構造変化、細胞接着との相関解明を行う。また、A02との連携を発展させ含水時の材料物性と細胞接着挙動を予測可能にする機械学習モデルの精度の向上を図る。これにより、生体親和性および金属ステント表面への高接着性を示す材料の設計指針を創出する。
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