研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05721
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高島 義徳 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40379277)
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研究分担者 |
松葉 豪 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 教授 (10378854)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 分子接着 / 界面物性計測 / 水圏融合材料 / 水環境合成 / 超高強度・高靭性材料 |
研究実績の概要 |
【研究概要】令和3年度(2021年度)は、水圏メカノ機能材料の研究目的を達成するために、水環境での合成・接着技術の確立をめざし、本領域のコンセプトである「材料科学」と「水の基礎科学」の融合した研究基盤を構築に集中した。世界で初めて水圏メカノ機能材料を達成することを目的に、水圏材料合成と水圏材料の構造評価、さらに研究項目外と研究項目内の水圏材料の共同研究もさらに加速させた。 【接着性・自己修復性・靭性機能と含水率の関係】ポリアクリルアミドを主鎖とし、環状ホスト分子であるシクロデキストリン(CD)と相互作用のあるアダマンタンを高分子主鎖に修飾した(pAAm-βCD-Ad(x,y))。pAAm-βCD-Ad(x,y)は分子認識を通して架橋され、自己修復性を示した。pAAm-βCD-Ad(x,y)の力学特性は含水量に依存し、機能性官能基ユニットの含有量に応じて、40 wt%周辺の含水率で破壊エネルギーが最大になった。pAAm-βCD-Ad(x,y)の破壊エネルギーや材料間の接着には、最適な含水率が存在した。(Macromolecules, 2021, 54, 8067.)材料中の水の形態はA03-2の田中賢との共同研究により、自由水、中間水、不凍水に分類して考察を行った。 【水圏環境下における異種材料間接着】ホスト-ゲスト錯体形成とアミド結合形成の相乗効果を利用した異種材料接着を行った。CD/COOH修飾ヒドロゲルとアダマンタンアミン修飾ガラス基板を24時間接触させることで、包接錯体形成に基づき接着した。次いで縮合剤溶液を浸漬させてアミド結合を形成させたところ、接着強度が向上した。比較対象のCOOH修飾ヒドロゲルとNH2修飾基板(包接錯体無し)の場合と比較して、接着強度が3倍向上した。競争阻害剤で包接錯体を解離させた場合でも、約2倍の接着強度を維持した。単なる2種の結合の合算に留まらず、ホスト-ゲスト錯体形成がアミド結合形成を促進したことが示された。(ACS Appl. Polym. Mater. 2021, 3, 2189)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【現在までの進捗状況】令和3年度(2021年度)は水圏メカノ機能材料の研究基盤構築にあたり、材料合成系と材料構造評価系、さらに研究項目外と研究項目内の共同研究の枠組みさらに加速させた。 現在、さらに水と材料の関係を調査しており、多様な水圏環境における超分子ヒドロゲルの力学特性及び超分子架橋の振る舞い理解するために、CDとビオロゲン末端を有するアルキル鎖ゲスト分子の包接錯体を架橋点として持つゲルを作製し、含水率を変えながら力学特性及び動的粘弾性を評価した。包接錯体の包接挙動はA02-2の渡辺との共同研究により,最適な会合状態を分子計算より決定した。約30~40重量%の含水率の時、ゲルは架橋率に関係なく最も強靭であった。含水率が低いと高分子鎖がガラス状に振る舞い、超分子架橋の可逆性が働かないことが示唆された。含水率が高すぎると、膨潤圧が高すぎるために効果的に応力分散できないため、靭性は低下するといった重要な発見にも至っている(Supramol. Mater., 2022, 1, 100001)。 令和4年度(2022年度)に向けて、順調に基盤データの蓄積が行えており、材料合成系から材料評価系にシフトできている。共同研究も複数進められていることから、おおむね順調に進展していると言える。 【界面物性制御・界面先端計測】天然由来材料である馬鈴薯澱粉の吸水・脱着プロセスについて湿度制御セルを用いたFT-IR測定、X線散乱測定、顕微鏡などを用いて評価した。その結果、コンホメーションからナノメートル~マイクロスケールに至る広い空間スケールにおいて定量的な評価に成功した。(Food Sci. Nutri., 2021, 9, 4916).また、結晶性のゲルの構造解析を実施し、広い空間スケールの測定を行い、ゲル内部に含まれる数百nm程度の密度ゆらぎの評価に成功した。(Macromolecules, 2022, 55,1230).
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今後の研究の推進方策 |
【水圏メカノ接着材料・異種材料接着】 令和4年度の研究では、水圏での力学的機能と可逆的・可動性架橋の相関解明を行い、生体親和性材料としての展開に注力する。特にA03-2の田中賢との共同研究により、血栓形成と材料機能との関係や水の種類との関係を深める。さらに令和4年度は「(4) 線膨張率の異なる異種材料接着」では可逆的・可動性架橋ポリウレタン材料にて、湿度と力学測定と分光測定を組み合わせ、材料中の水の役割をA02-1の原田・池本とともに進める。またA02-2鷲津とは分子認識に関する分子シミュレーションを実施し、実験結果に対する検証を実施する。その他の水圏高分子材料についてもA02-1池本・A03-3松葉と連携して、引張試験を行いながら赤外分光分析・小角X線散乱の解析結果と合わせて、水圏での異種接着の高強度・高靭性接着に挑戦する。 【水圏メカノ分子認識材料を用いた化学センサーの開発】 令和1-3年度の研究により、水圏にて機能する高強度・高靭性・自己修復性の機能発現の機構解明を行い、材料開発に成功した。本材料の特徴として、分子認識部位を有することが特徴となっており、強靭性を備えた化学センサーへの開発に取り組む。水圏化学センサーの開発には、A01公募研究者の南と連携した研究成果を発表する予定である。 【水圏バイオ-メカノ材料の開発】令和1-3年度の共同研究により、A03-2田中賢との共同研究により、高強度・高靭性化には最適な含水量が存在することが明らかになった。令和4年度は生体適合性超分子材料を用いて、「水圏バイオ-メカノ材料」への展開を目指す。高強度・高靭性を生かし、血小板粘着試験やHEUVC試験を行った成果を取りまとめ、論文を発表する。さらに改良型の生体適合性強靭材料を開発しており、最適含水率と力学特性との関係、力学特性と生体適合性との関係を調査し、優れた人工血管材料に繋がる基盤技術を構築する。
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