研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H05723
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊佐 正 京都大学, 医学研究科, 教授 (20212805)
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研究分担者 |
内藤 栄一 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター, 室長 (10283293)
浅田 稔 大阪大学, 先導的学際研究機構, 特任教授 (60151031)
相澤 秀紀 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (80391837)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 機能回復 / 脱抑制 / fMRI / モノアミン / 高齢者 |
研究実績の概要 |
A01班では、主に超適応機構の「生体構造の再構成」の観点から、大規模脳領域での脱抑制が生体構造の再構成による超適応機構の基盤であるという仮説を、班員それぞれの研究を融合・発展させて検証することをmのⅸ敵とした。伊佐らは、ニホンザルにおいて頚髄C4/C5髄節で皮質脊髄路を切断すると、サルの手指の精密把持運動は一旦障害されるが訓練によって数週間で回復する実験モデルを用い、この同側運動野の活動の増加が反対側PMから同側PMへの投射経路によってもたらされることを証明するため、この経路の選択的遮断を試みたところ、反対側から同側へのGCが一方向性に減弱することから半球間投射経路の遮断ができていることを確認した。そして頸髄損傷前はこの経路の遮断は精密時把持運動に影響を与えなかったが、損傷後の回復初期に遮断すると回復してきていた精密把持運動が再度障害された。以上の結果から反対側PMから同側PMへの信号の流れが、回復初期における同側運動野の貢献に重要な役割を果たすことが証明された。内藤と浅田らは、機能的MRIを用いて、ヒト運動野の半球間抑制機構の理解を促進した。具体的には、健常若年成人において、片足のみの運動実行時には顕著な半球間抑制が観察できなかったが、片足の運動感覚情報処理時には顕著な半球間抑制がみられることを突き止めた(Naito et al. Brain Science 2021)。一方で、加齢により劣化した半球間抑制機構はコーディネーショントレーニングにより改善でき、これが運動の改善にもつながることを示した。相澤は、マウス大脳皮質M2領域の半球間抑制を薬理学的に調べ、GABAB受容体作動薬・阻害薬が半球間抑制をそれぞれ増強・減弱させること、一方でアセチルコリン受容体阻害薬は半球間抑制を亢進させる作用を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
伊佐らは、ウイルスベクターを用いてサルの半球間経路を選択的に抑制する手法を開発し、脊髄損傷前後の段階特異的に、半球間経路が果たす役割を明確にしつつある。内内藤と浅田も加齢により劣化した半球間抑制機構をコーディネーショントレーニングにより改善する手法を開発しつつあり。そして内容はマウスモデルで半球間抑制の修飾因子を探索し、アセチルコリンの関与を明らかにしつつある。このようにいずれの構成員もたがいに連携して、興味深い知見を得つつある。
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今後の研究の推進方策 |
伊佐グループは脊髄損傷後の回復の初期において、損傷反対側運動前野から同側運動前野への半球間経路の果たす役割を選択的経路遮断法によって実証する。 内藤・浅田グループは、これまでに運動野の半球間抑制機構の理解を促進し、加齢により劣化した抑制機構はトレーニングによって改善できることを示した。次年度は、手指複雑運動時にみられる同側運動野の脱抑制様式に関して、若年成人と高齢者との相違を明らかにし、また、両足が不自由な車椅子レースのトップパラリンピアンの脳でみられる超適応現象をまとめ、これらの成果を発表する予定である。 相澤グループは、これまでに半球間抑制のマウス実験系を確立し、その修飾物質の同定を進めてきた。次年度は、光遺伝学および電気生理学を用いて広汎修飾系として知られるモノアミン系や適応時に脳以外の臓器から放出されるホルモンが半球間抑制に与える影響を明らかにする予定である。
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