研究実績の概要 |
本研究は,新学術領域「超適応」の計画研究として「身体認知や意欲などの正の情動が,運動学習を促進する」という仮説を検証,そのメカニズムを解明することを目的とする.今年度の主な成果として,以下の項目が挙げられる. 1) 身体認知の一種である「運動主体感」(自身が運動を引き起こしているという感覚)と運動学習の関係の解明:感覚運動学習課題において,直前の運動を自己に帰属した場合は,そうでない場合と比較して,短期的な学習率が有意に向上することを示した. 2) 運動主体感の基礎的なメカニズムの解明:これまでの運動主体感は,手や腕の運動が主に使われてきた.研究代表者のグループは,自然な発話における運動主体感を心理学的に測定する実験を行った.その結果,発話の主体感では,感覚と運動の同期性も重要であるが,音声に内在する自己の特徴が大きな役割を果たすことを明らかにした. 3) 動物(サル)における簡便な意欲の評価法の確立:手指運動の巧緻性を評価するための Brinkman Board 課題(板に空けられた縦あるいは横向きの多数の溝から, エサの小片をつまみ出す課題)を, 意欲を評価するために改変して利用していたが, これを短時間かつ少ない試行数で実施できる汎用性の高い方法として確立した. 4) 意欲にかかわる脳領域の解明:非侵襲的な脳刺激で,前部帯状皮質の膝下部, あるいは, 膝前部と標的としたときだけ, 課題のパフォーマンスに変化があった. Brinkman Board 課題でエサの入った溝の幅が大きく, 簡単な条件ではセッション遂行数に変化はなかったが, 溝の幅が小さく, 難しい条件ではセッション遂行数が少なくなった. この行動の結果は、単なる動機付け(drive)の低下では説明できず, 課題を遂行しようとする意欲(motivation)の低下によるものであると解釈された.
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